4-119【光の雨6】



◇光の雨6◇


 今の私に出せる全力の一撃だった。

 その何度も重ねた光線は一つのかたまりとなり、【クラウソラス】と一つになったように見えて、私は思い切って攻撃に転じたのだ。


 ロッド先輩が放った、私に迫る炎はドンドンとその威力が弱まっていく。

 必死に魔力を練って防いだ甲斐かいもあると言うもの。


 そして、私が渾身こんしんの振り下ろしをした【クラウソラス】は、ロッド先輩の魔法を、爆散させた。


 ドゴ――ッォォォォォォォォォン――!!


 爆風を巻き起こして、炎は消え去った。


「――はぁ……はぁ、どうです?私の勝ちでしょ……っ」


 フラフラと……私は足元が覚束おぼつかない。

 しかし、ロッド先輩もフラフラだ。


「……」


 これ以上は、魔力が切れそうだわ……気を失いそう。

 勝利宣言、そう決めたい私だったけれど。


「ふふっ。これで決まれば何も言う事は無いのにな……そうだろ?クラウ・スクルーズ」


 不敵ふてき……まさしくそんな顔。

 魔力も無くなった、魔法も打ち破られた……なのに、何故なぜそんな顔を?


 なに?いったいどういう意味?


「――どういう――」


 ――気配。


 それは、消えたと思っていた……ロッド先輩の魔力だった。

 爆散した、炎の魔力。


 それが……私の足元――地面の下から。


「――な」


「終わりだよクラウ・スクルーズ。この魔法は、衝撃波と……による二段構えなのだからなっ」


 柱――ピラー。

 その言葉だけで、どこから迫ってくるかなんて予想もつく。


「まさか――」


 足元から、魔力以外の感覚……これは、熱だ。


「魔力!!全か――」


 ドッ――ォォォォォォォォォォン――!!


 言い終える前に、その獄炎ごくえんの火柱は、私をおおうほどの質量で……天に昇って行った。





 目を開くと、青空が見えた。

 炎の柱によって、私は空高く打ち上げられたようだ。


 残った魔力で何とか防ぐ事が出来たらしいが……でも、身体が動かない。

 力も入らない……上昇を終えて、あとは落ちるのみ。

 そうなれば、自然落下で私の負けだ。


 下にはミーティアもいるし……死ぬことはないんだろうけど……複雑ね。

 ジルとジェイルに負けて以来、私は誰にも負けていない。

 そうか……初めて負けたのか……負けた?負けたの?


「……まだ……」


 身体は動かない。

 でも、残っている物もある――今回の戦いで魔力を注ぎ切った、翼だ。

 翼の操作を……もう【クラウソラス】も消えてしまって、本当に動けない。


「くっ……この!」


 何とか翼に注いだ魔力を操作して、羽ばたかせる。


 バサリ、バサリと……滞空たいくうし留まる。

 これで、無様な落下だけは防げた。


「――見事なものだよ。クラウ・スクルーズ……この魔法を二段で受けて、まさかまだ動けるとは」


 下からの声に、私は。


「もう動けませんよ。身体がきしみそうだし、魔力だって残ってません……あるのは、この翼の魔力だけ……」


「そうか、なら……こちらの勝ちでいいな?」


「……」


 そうはいかない――まだやれる、まだ戦える。

 身体が動かなくても、剣を持てなくても……翼がある。


「悪いですけど、そうはいかないのが私なのよっ……このまま負けたら、師に合わせる顔がないもの」


 そうよ、負けられない。

 ジルやジェイル以外には、絶対に負けたくない!


「ふっ……なら攻撃してみるがいいさ、こちらも魔力は残っていない……だが、剣はにぎれる。ここまで来て、殴り飛ばしてでも見るか?」


 そんな必要は無いわ。

 だって、魔力を注いだ翼が……今にも爆発しそうなのだもの。


「それじゃあ……私の次の攻撃、それを防いだら……先輩の勝ちでいいですよ。その代わり、受けたら負けを認めてください」


「……ふん、いいだろう」


 その無理矢理作った笑顔、ぶっ壊す。


 きっと、もう何も出来ないと踏んでいるのでしょう?

 そうね、今から新しい魔法を撃つことも出来ないし、【クラウソラス】を具現ぐげんする事も出来ない。


 残されたのは、この翼のみ……白くかがやき発光する、この翼しかないのだから。

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