4-118【光の雨5】+用語その9



◇光の雨5◇


 私は、その瞬間の為に距離を取る。

 ロッド先輩も、ゆっくりと歩いて……随分ずいぶん私から離れた。


 ん……?キルネイリアを見ている?


「……笑った?」


 私は眉根まゆねを寄せていぶかしむ。


 う~ん。やっぱり、たださげすんでいるようには見えないのよね……どこか、優しさと言うか何というか、心配?しているように見える。

 言葉はひどいし態度も悪い……でも、その裏返し……って感じね。


「――さぁ、行くぞ……クラウ・スクルーズ」


 準備を終えたのか、ロッド先輩は私にわざわざ合図をした。


「え、ええ……」


 いけない……集中しないと失礼だ。

 もし……もしも初めからロッド先輩がこの対応をしていたら、普通に強者の部類に入る気もするわね。


 彼は長時間戦闘が出来ない。

 強化したアイテムも、自分では使えないという欠点がある。

 その結果、周りにいるのがあの二人……もっと関わる人を選べたら、きっともっと苦戦する相手だったのかもしれないと、身に染みて思う。


 そんなことを考えていた私だったが、次の瞬間……目を見開く。


「……!」


「――燃えさかれ、紅蓮ぐれんの炎よっ……赤き眼光がんこう撃ちつらぬき、戦火の果てに燃ゆる御霊みたまごとく!」


 長い詠唱だ……そうよね、最大の技って言ったものね。

 それにしても、凄い魔力だわ……一発って言うのもうなずける。


 でも、私も負けはしない。


 その魔法を受けきって、私が勝つ!!

 ロッド先輩の詠唱に合わせて、私も魔力をる。

 対象は……翼だ。


「――【天使の翼エンジェル・ウイング】!!ブーストッ!!」


 大きく翼を広げて、魔力をドンドン籠める。

 残存魔力は心許こころもとないが、出来るだけ多くの魔力を注ごう。


「赤き炎よ、ごくの炎火よ……我が敵をめっする一筋の柱となれっ!!」


 来るっ――!!


「――行くぞ、クラウ・スクルーズ!!――【獄魔炎柱衝ヘル・ブレイズ・ピラー】!!」


「大層な名前ですねっ!!――翼よっ!!」


 ロッド先輩の手のひらからはっせられたのは、赤黒い炎だ。

 ヘルブレイズ……地獄の炎と言う意味だろうけど、私には分からない事があった。

 こんなにも凄い魔法を使えるのに、どうして血なんかにこだわるのよっ!!


 迫る獄炎に、私はおおいかぶせる様に魔力を注いだ翼を、自分の前に重ねる。

 翼を、魔力を籠めた盾にしたのだ。


 防ぐ!!……防ぎきって、あの人を【クラウソラス】で斬る!


「――ぐっ……ぅぅぅぅぅぅうっ!」


 魔力と魔力の激突だった。

 これがお互い、全力の魔力で行っていたらどうなっただろう。


 熱い……肌が焼けそう、息が苦しい……でも!

 翼の二枚盾の隙間から、少しずつだが炎が漏れ出ている。


 押し負けているんだ、私が。


「――こ、のぉぉぉぉぉぉ!!」


 再度魔力を注ぐ。

 翼は白い発光色を出してかがやくが、ドンドン押されているのが分かった。


 ズズズ――と、踏ん張る足が音を鳴らす。


「この魔法、圧力が凄いっ!威力だけなら、勝てない……っく!」


 ならばどうするっ――こちらも、威力で返す!!


「――【クラウ、ソラスゥゥ】!!」


 思い切り翼を広げて、一瞬だけど押し返す。

 その一瞬の余白に、私は【クラウソラス】を構えた。


「最大出力で――【孔雀貫線光ピーコックレイ】!!」


 両手で構え、迫る極太の火炎に無数の光線を連射する。

 何度も、何度も。


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!こっ、のぉぉぉっ!!」


 徐々に押し返す。数の暴力という奴で。

 連射連射連射連射!魔力がある限り、前撃った光線が消える前に、次の光線を重ねて放って行く。

 そうすることで、極太の炎に負けない光線が出来上がった。

 こんなのは魔法でもなんでもなく、名前なんて付けられないようなものだ。


 だけど、それは【クラウソラス】と繋がったまま、まるで大きな剣にも見えた。


 これを――振ればいいのでは。

 そう頭を過ぎった瞬間には、私は【クラウソラス】を振り上げていた。


「――斬る!!」


 私は、その膨大ぼうだいな魔力が重ねられた【光線剣レイブレード】を――叩きつけた。




 ――――――――――――――――――――――――――――――

・【澪から始まる】用語その9

 【天使の翼エンジェル・ウイング】。クラウの魔法の一種。

 魔力を背中に集中させ、翼へと変質させる魔法であり、空を飛べる。

 魔力を形にすると言う転では、【クラウソラス】と同じである。

 【豊穣の村アイズレーン】にて魔物が襲撃してきた際、クラウがアイズに無理やり聞き出して習得した【クラウソラス】の派生魔法の一種だが、これもまた非常に燃費が悪い。

 年々魔力も上昇し、常に【クラウソラス】で鍛えているクラウだからこそ、【結晶剣クリスタル】と併用する所まで練度れんどを高めた。

 翼は、魔力を籠める事で様々な応用が可能であり、翼に魔力を籠めて重ねる事で、盾のような役割を果たすこともできる。

 翼にダメージを受けても直接的な痛みはないが、削られると魔力が消費される。

 羽ばたく度に、練った魔力が粒子となって、それこそ鳥の羽のように舞う。

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