4-117【光の雨4】



◇光の雨4◇


 最後の戦いが始まった。

 火花散るその剣戟は、何合目か。


 キィィンッ――!


 ギリリと火花を放ち、剣が金切り音を鳴らす。

 肉薄するロッド・クレザース先輩の顔は、真剣そのものだった。

 手に持つ剣は豪華な意匠いしょうだが、使いこまれ手入れもされたものだった。

 いわゆる名剣ではないが……愛の籠められた逸品いっぴんだとわかる。


「はぁ!!」


 ガキン!!っと、私の【クラウソラス・クリスタル】をはじき、翼を広げて後方に飛んだ私に、ロッド・クレザースは続けて。


「――火よともれ!熱き視線で穴を開けろっ!」


「詠唱!?」


 それは……魔法だ。

 本来、魔法は詠唱を必要とする。


 私やミオ、更にはジルやジェイルが詠唱を超短略した魔法を使うからか、とても珍しく感じるけれど、これが本来の……この世界の魔法の形だ。


「――【熱火の視線ヒートゲイズ】!」


 ロッド先輩の指先から、熱線が放たれる。


「速いっ!」


 【貫線光レイ】ほどではないが、線の細い赤い熱線だ。

 自分以外の光線系の魔法、初めて見たわね。


「……【魔障壁マ・プロテク】!」


 手をかざし、魔力の壁を作り上げる――しかし。


「……す、ごい威力っ――くっ!!」


 パリン――!と、私の魔法が押し負けた。

 まだ練度れんどが低いかっ……!


「――ぐっ……!?」


 ジュッ――と、肩を穿うがった。

 熱線はそのまま翼をもつらぬいたが、それでも私は何とか着地する。


「くっ……はぁ、はぁ……せ、先輩、ここまで戦えるのに、どうしてそいつらに頼るんです?」


 ほぼ嫌味だった。


「……君の魔力をいだだけでも、コイツ等は役に立ったという事だな。万全なら、魔法も防がれていた事だろう?」


 もう、ロッド先輩にわざとらしい言葉も態度も無い。

 多分……こっちが本性、どこまでも嫌われてもいいと言う、演技だったんだ。


「さぁ、どうでしょうね……私もまだまだ、という事です」


 正直言って、残りの魔力はとぼしい。

 ケチって魔力を少なくした【魔障壁マ・プロテク】では、防げなかったのね。


「……くっ」


 ロッド先輩がふらついた。

 私は何もしていない、だけど心当たりがある。


「魔力切れ、ですね」


「――ああ、そういう事さ。【クレザースの血】があっても、剣を扱えても……この少ない最大魔力では、長時間戦えない。【クレザースの血】で強化した道具も、使用の度に魔力を持って行かれるんだよ……おかげで、俺は総合クラスには入れない」


 そういう事か……この人は実力も能力もある。

 だけど、その能力――【クレザースの血】は、常に魔力を使う。

 私の魔法を何度も防ぎ、私を重力で叩き落す度に、ロッド先輩は魔力を消費していたのね。


「もう、決着を付けようじゃないか……クラウ・スクルーズ。俺は、自分が使える最大の技を君に放とう……これが防がれれば、俺の負けだよ。だが、この魔法は君を倒すよ」


「大した自信ですね。私も、もう魔力がほとんど無いです……この翼、出してるだけで魔力使うんで」


 お互い、一発と言った所かしらね。

 最大の技……か。

 スピードで避けて、一撃入れる……それでもいい。

 でも――この人がつちかってきたその技……受けないと失礼だ。


 私も、それに応えよう……私が持てる――最大の魔法ひかりで。

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