4-116.5【ロッドの心中】



◇ロッドの心中◇


 もうすぐ終わる……この指導という名の戦いが終われば、ようやくアイツを解放してやれるのだ。

 持たない者……ハーフと言う呪いにおかされた、あわれな娘。


 クレザースと言う名家に産まれながら、エルフとのハーフと言う事だけでさげすまれた。

 しかし、両親からは愛情を受け育った。

 それだけで、充分幸せだったはずなのだ……力も権力も無い、【クレザースの血】すらも使えないその娘も、愛だけは知っていた。


 だが、その愛を奪ったのもまた、クレザースの人間だった。


 現当主、ダイノ・クレザース。

 老いてなお力を求める貪欲どんよくな男は、長男レダナがエルフとの結婚をした際、こう言った。


 『力を持たぬ者に、クレザースの名はやれん』


 それは産まれてきた娘、キルネイリアを認めないという事だった。

 それでも、レダナはクレザースの家の中で娘を愛した。

 妻と娘、それさえいれば、何もいらなかったのだ……家督かとくすらもぐ気はなかった。

 そんな心優しい息子を、彼は罠にめたのだ。


 四年前、凶暴な獅子の魔物……【ガルノレオ】を操る為、とある人物を家にまねいた。

 その人物は見事に【ガルノレオ】数体を操り、闇の組織――【常闇の者イーガス】に依頼をして、息子夫婦を襲わせたのだ。


 そして、【ガルノレオ】はレダナの妻であるエルフの女性をい――【アルキレシィ】へと進化を果たした。

 残ったのは、夫婦に守られ……馬車の中でおびえていた子供、キルネイリアだけだった。


 両親を目の前で失った子供。

 現当主のダイノは、彼女を【常闇の者イーガス】へと売ろうとしたが……俺が彼女を買ったのだ……メイドとして。


 彼女は従順じゅうじゅんだった。

 しかし、全てをあきらめたようなフリをして、その機会をうかがっていたのだ。


 二年前、俺の【クルセイダー】への入学を機に、キルネイリアは決意をした。

 自身のメイドとしてかせいだ些細な金で、【クルセイダー】へと入学を果たしたのだ。

 メイドとして一年間、冒険者の在り方を俺のそばで見て来たキルネイリアは、あきらめることしなかった。

 魔力もほとんど持たず、身体能力もそこそこ、【クレザースの血】すら使えもしないのに、一年の同窓生と【アルキレシィ】について調べ始めた。


 このままでは、キルネイリアはきっと死んでしまう。

 そうはさせたくなかった。


 だから、このまま黙ってメイドをしていればいい。

 冒険者になんて成らなくていい。

 持たない者は……ただ、守られていればいいのだから。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る