4-116【光の雨3】



◇光の雨3◇


 ロッド・クレザース先輩……その視線は、倒れる取り巻き二人に向いていた。

 にらむように、使えないものを見るように……冷めた目だった。


「――まったく……作戦通りに動けというのに、使えん奴らだ。所詮しょせんは運だけで進級した……ただのやからという事か」


「……まるで仲間じゃないみたいですね、その言い方だと」


 実際そうなのでしょうね。


 信頼関係なんて、きっとおたがいになかったんだわ。

 ロッド・クレザース先輩にとっては、倒れる二人は自分の力で強化した道具を使わせる為のこま

 倒れる二人にとっては、自分を強くしてくれる優良パトロン……だったのでしょうね。


「ふん……【クレザースの血】で強化したアイテムを持っていながら、このザマだ……たかが知れるさ。そうだろ?クラウ・スクルーズ」


「……そうですね。私怨しえんで独断行動をしてくるような人たちなら、始めからいないほうがマシです」


「……同感だな」


 倒れる長髪の男を見ながら、私は言った。

 ロッド先輩も同じ考えらしい。なら始めからそうしなさいよ。


 それにしてもこの長髪の男……さっき、依頼を断られたって言ったわよね?

 正直言って、覚えてないわよ。

 依頼サポートのお願いなんて、一日に何件来ると思っているの?

 その都度断っている訳でもないけれど、逆恨みも大概たいがいにして欲しいわ。


 私はこの男にも腹立たしさを感じながらも、戦いの最中に感じた違和感を、ロッド先輩に話す。


「でも、先輩も同じようなものでしょう?」


「――どういう事かな?」


 魔力操作による道具の強化。

 その中には、きっと書類を偽造ぎぞうするものもあるのでは?

 そう断言できる。


「あの依頼書、偽物ですよね?」


 ミオとトレイダのサインが入った依頼書。

 確かにミオの文字だったし、ミーティアも自分の文字だと確信していた。


 だが、文字のコピーが出来ればどうだ。

 以前の依頼書には、確かにミオもトレイダも書いただろう。

 私だって依頼書にはサインを書くし。


 あの依頼書自体は本物だ。それは確定。

 でも、きっと文字はコピーだ。

 魔法の道具で、前の依頼書からそのまま文字を移したんだと思う。

 私はそう予測する……でも、ハッキリ言って……もう関係無い。


「……」


「別に答えなくてもいいですよ。正直言って、もう関係無いのでしょう?その依頼書の有無うむなんて、切っ掛けに出来ればよかったんだから」


 どうしてロッド先輩がキルネイリアに執着ちゅうちゃくするのかは分からないが、きっと初めから決めていたのだろう。


 近いうちに、キルネイリアにはあきらめさせると。

 家の事情か、個人の意見かは知らないし……私には関係ないけれど。


「――ふっ……話が早くて助かるよ」


 ロッド・クレザース先輩は歩きながら、二人の取り巻きが持っていた道具を回収する。

 しかし、ロッド先輩が手持った瞬間、その道具は二つとも……砕けた。


「そういう事ですか……先輩は、自分で魔力を注いだ道具を、自分では使用できないんですね?」


「……ああ。だから、コイツ等が必要だったのさ……【クレザースの血】は確かに凄い力だ。使いきりの道具ですら、何度も使えるように出来るんだ……だが、自分で使えなければどうしようもない。作戦通りに君を疲弊ひへいさせられれば、もう勝負はついていた筈なのにな」


 だから、都合よく動くこまが必要だった。

 こんな取り巻きでも、使えるだけマシだったという事ね。

 でも、戦いはこれから……私は負けないわよ。


「そうでもないですよ。簡単には負けませんから」


「ふん……あぁそうかい。一年首席、クラウ・スクルーズ」


 ロッド先輩は腰の剣を抜く。

 自分で動く覚悟を決めたようだ。


 あの剣、魔力は感じないわね……ただの剣だ。


「先輩。もう、長く戦えないのでしょう?」


「……それはどうかな。道具は使えずとも、剣は違う。つちかってきた剣技で……君を倒そう」


 そうね、私だってそうだわ。

 この人だって一年間、学んでここにいる。


 強化した道具を渡し、それを指示する。

 それだけで進級できたというのなら、対魔物クラスではなく……他のクラスに振り分けられているはずだもの。

 この人の本質は……まだ、隠されているんだわ。

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