4-114【光の雨1】



◇光の雨1◇


 最初から本気で戦えれば、どれだけよかったか。

 もしかしたら、速攻でケリがついた可能性もあるし、その逆……一瞬の油断で、私が地に伏せる可能性もあった。


 実際、魔法の道具を広く使うと言われるロッド・クレザース先輩の力――【クレザースの血】は、強力だと思った。

 それを知れただけでも、蹴られた甲斐かいもあるわね……本当はめちゃくちゃ腹立たしいけれど。


「――くっそっ!早ぇんだよっ!」


「ちっ……近付きさえすれば・・・・・・・・っ!!」


 へぇ――そういう事ね。


 私は今、三人の周囲を高速で動き回っている。

 足が動かなくなるのなら、飛べばいいのだから。


「――【貫線光レイ】!!」


「――ルロス!左だ!」


 ロッド・クレザース先輩が叫んだ。

 ルロスと呼ばれたトサカ頭の男は、言われた通りに左に向き直る。

 その手の鏡を、向けたまま。

 やっぱり、あの鏡が【貫線光レイ】を消したんだわ。


 このまま行けば、また搔き消される――それならっ!


「――曲がれぇぇっ!」


 私は【クラウソラス】の剣先から光線を出しながら、【クラウソラス】をぐ。

 そうすることで、まるでむちのように――光線が動いた。


「――なにっ!!」


「がっ!!ぐがぁぁ!」


 おどろくロッド先輩。

 そして、光線はトサカ頭の足に直撃し……貫通かんつうしていく。


 ブォン――と、光線は地をぎ壁に衝突、壁には焼けたような跡が残った。

 そのまま上空まで昇って行き、ゆっくりと消える。


「行けるっ!」


 二年生とは言え、取り巻き二人の個人技量は低い。

 実力だけなら私が上だわっ、あの道具にさえ気を付ければ!

 私は地上付近を滑空かっくうしながら、三度【貫線光レイ】を放つ。


「くそっ……散れっ!!固まるな!」


 ロッド先輩が指示を出すが、動いたのは長髪の男のみ。

 トサカ頭は足の感覚がなくなっていて、動けないのだ。


「くそぉぉぉっ!ロッドさん!う、動けねぇ!」


 脚を押さえながら、叫んでいるトサカ頭。

 しかし、反対の足にも……光線が迫り。


「――うぉあ!」


 パシューーン!と搔き消すも。

 迫るのは、もう二本。

 先ほども消された攻撃だが、今度は違う。


 先程までは、魔力のかたまりを放っていただけ。

 今の【貫線光レイ】は、私が操作をするのだから。

 ただの直線じゃないのよ。


「あ――ああ!!足がぁぁ!?」


 反対側の足、太腿ふとももから下を光の線がぐ。

 両足の感覚を奪われたトサカ頭は、腹這いで倒れた。


「――ル、ルロスぅぅ!!」


 長髪の男が、トサカ頭を心配して駆け寄ろうとした。

 するとロッド先輩が。


「やめろディルザ!動くんじゃない!!」


「もう遅いわよっ!!」


 その瞬間を逃さず、私は翼に魔力を籠めて、一気に長髪の男に迫る。

 だが……ロッド先輩がニヤリと笑ったのが視界に入り、行動を中止しようとした。


「遅いのはどちらかな」


 ――が、もう遅かった。


「へへ……ロッドさんの言う通りだぜっ!チビ女!!――【墜堕ついだの腕輪】!!」


 つい、だ?


 その腕輪の名の意味を理解する前に。

 私は翼ごと――地面に叩きつけられたのだった。

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