4-113【クレザースの血8】



◇クレザースの血8◇


 私、ミーティアは……クラウがあんなにも動けない場面を、初めて目にした。

 動きが鈍いのは何故なぜ

 攻撃――魔法を撃ち消したあの鏡のような物はなに?

 私には、分からないことだらけで……ひどく、無力を感じた。


「あの道具は【鏡霧きょうむの盾】という、一度だけ魔法の効果を打ち消す事が出来る高級品です」


 イリアが、その正体の説明をしてくれるが……一度・・だけ?


「今の攻撃で、もう四度目よ……?」


「はい。それが、【クレザースの血】なのです……一度きりの消耗品でも、回数を関係なく魔力で操作できてしまう。ロッド坊ちゃんは特に、魔力を注いだ道具を……他の人に使わせる事が出来るのです」


 だから、あの二人が前面に出て来ているのね。

 その男の一人に、クラウが肉薄していく。


「――クラウっ……!?」


 接近して攻撃を狙うクラウだったが、急に動きが鈍くなった。

 身体を重そうにして、ひざを着いたのだ。


「なんで、クラウはあんなに」


 戦いづらそうにしているのかしら。

 私たちとの訓練での疲労した?

 でも、そこまで疲れているようには見えなかったわ。


「クラウっ!!」


 私の声は届かない。

 クラウはひざを着いても、すぐに動いて男からの追撃をける。


「あの道具は……」


 取り巻きの動きは、クラウを引き離すような動きに見える。

 一人が魔法を無効化し、一人が接近を許さない。

 その一人、今クラウを攻撃した男は腕輪をしている。

 もしかして……あれが?


「……ねぇ、イリア」


 そう思い、私はイリアに問う。

 しかし、イリアも戸惑とまどいながら。


「いえ……分かりません。あの腕輪が魔法の道具であれば、魔力の流れは?」


「いいえ、感じないわね……あのひとからは、特には」


「なら、クラウの動きを鈍くしたのはいったい……なに?」


「「……」」


 私とイリアには、考える事しか出来ない。

 それしか出来ないのに、答えを導き出すことも出来ない。

 不甲斐ふがいない……


 そして、クラウの動きがまた鈍くなり。

 ひざを着いたクラウの動きに合わせて、狙っていたかのように……男が足を振り抜いた。


「「クラウっ!!」」





 ドッ――!!


「がっ――は……」


 思い切り振り抜かれた……肺の空気が一瞬で抜けていく。

 息が出来ない……そして、背中に衝撃を受けた。


「――ぐっ……な、にが……」


 すぐには理解できなかった。

 だが、攻撃が続くと思って目を開くと、三人はすごく遠くにいた。


「……え、こんなに飛ばされた?」


 ただの蹴りで、ここまで飛ばされる?

 私は壁際にいたのだ。


 中央付近で腹に蹴りを受け、転がるならば分かる。

 だが、私は壁際だ……十数メートルは吹き飛ばされたことになる。

 ただの蹴りでここまで吹き飛ぶ?なんて脚力してるのよ、いったい。


 立ち上がり、追撃が来ない事に違和感を感じる。

 しかし、ロッド先輩にいたっては、模擬戦が始まってから私に一度も攻撃をしてきていない……そこも不自然だ。


「さぁクラウ・スクルーズ……かかってこいよぉっ!おらぁ!?」


 トサカの男は、分かりやすく手を招いて挑発する。

 長髪の男も腹の立つ顔でこちらを見てくるが、二人はロッド先輩をかばうように立っている。


 現状、トサカ頭の男が【貫線光レイ】を搔き消し、長髪の男が攻撃をするというルーティーンなのだろう。

 ならばロッド先輩は?

 今分かるのは、魔法が消された時と身体が重くなった時……そのどちらの時も、ロッド先輩の魔力を感じたという事。


「ふぅ……今、行きますよ」


 こうなれば、無理矢理にでも突破する。

 二人を無視して、一点突破で行くしかない。


「――【天使の翼エンジェル・ウイング】!!」


 魔力の限界だってある……長引かせたくはないのは私も同じ。

 だから私は……短くはっして、地上すれすれを飛んだ。

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