4-111【クレザースの血6】



◇クレザースの血6◇


 クラウが訓練場の中央に向かって行く。

 私は何も言えなかった……気が利くことも、自分も一緒に戦うと言い出すことも。

 彼女に、何一つ言えない。


 送り出す事しか出来ない、ミオの時も……今も。


「……イリア。【クレザースの血】って言うのは、そこまで凄いもの?」


 少しでも知っておきたい。

 後学こうがくの為に、未来の為に。


「はい。単体では無意味ですが、魔力のめられた道具があって、意味を成す能力……だと思います」


「なるほど……前回の依頼の時に、あなたが荷物をたくさんかかえていたのは、そう言う事だったのね」


 この前の依頼サポートの時に、イリアは異常なまでの荷物を持たされていた。

 その中身が……魔法の道具だったという事ね。


「はい、あの中は大量の魔法の道具が入っていました。【クレザースの血】は、魔力に作用して、その効能を高めるのです。私にも同じ血が流れているというのに使えないなんて、情けない話ですが……」


 そんな事はないと思うわ。

 イリアは戦っている、その血と向き合って。

 力が思うように使えなくても、ご両親のかたきを討つために努力をするイリアには、あきらめて欲しくはない。


 きっとクラウもそう思ったから、ミオに共感したからこそ、こうして手助けしてくれているんだと私は思う。

 だからせめて、私は見届けないといけない……ここにいない、ミオの代わりに。





 三人は図々ずうずうしくも、自分の庭のように訓練場の中央で待っていた。

 茶髪の青年貴族、ロッド・クレザース先輩。

 取り巻きの二人も、随分ずいぶんと態度が大きい……と言うか、悪い。


「お待たせしましたか?」


 ロッド先輩は、ニヤニヤしながら答える。

 また雰囲気ふんいきが戻った……いったいどちらが本当の貴方あなたなの?


「――いいや。それにしても面白いな、君は……クラウ・スクルーズ。あんな失敗作の為に、そこまでする必要はあるのか?」


 いちいち腹立たしい事を言うわね。

 でも、私はそんな事でキレたりしないわよ。


「それは人によるでしょうね、私のように物好きもいるという事ですよ」


 私は笑って言ってやる。

 どう、生意気な顔でしょう?


「はっはっは!それはいいっ!!物好きな女は嫌いじゃないんだよ、精々……見世物でも楽しませてもらおうかなぁ!」


「がはははは!」

「わははっ!」


 薄羽のように軽い口ね……本当に嫌になるわ。


「そうさせてもらいますよ。では……始めましょうか、先輩」


「ああ、お前ら……頼んだぞ?キルネイリアに分からせるんだ、あいつには何も出来ないんだとなぁ!!」


 この状況でもキルネイリアの名を出すの?何の意味が……相手をき違えていない?

 ロッド先輩の不可解な発言に、私は眉を寄せるが、もうそんな事を考える余裕も無くなった。


「――おらぁぁっ!!」


 取り巻きの男が、先制を仕掛けてきたからだ。

 合図あいずもまだなのに。

 でも、予測は出来ていたし……攻撃も単調、簡単にけられる。


 私は横に跳び、その後は後方に下がりながら攻撃をけ続ける。

 数度の攻撃を全て回避し、着地するが。


「……?」


 追ってこない?


 取り巻きの男は、私を追ってこなかった。

 適度な距離を保つつもりなの?それとも他に何か、別の?


 ロッド先輩の盾になるように、男二人は私に向いている。

 ならば、試してみましょうか。


「――【クラウソラス】!」


 ここで初めて、私が剣を取る。

 精神や魔力にダメージを与える、通常の【クラウソラス】だ。

 光の剣の切っ先をロッド先輩に向けて。


「【貫線光レイ】!!」


 魔力の光線、光属性の魔法。

 可視化かしかされたその光の軌跡きせきは、ロッド先輩を目掛けて発射される。


 しかし、それを予期していたのか……取り巻きの男の一人が前に出て来て。


「無駄よ、貫通かんつうして――」


 ニヤリと笑う取り巻きの男は、命中する直前に手をかざす。

 その手には、何か小さなものがにぎられていた。

 その小さな物を、男は……ほこらしげに光線に向けたのだった。

 ダメージを受けるだなんて、初めから思ってもいない様に。

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