4-110【クレザースの血5】



◇クレザースの血5◇


 話は決まったわ……ロッド・クレザース先輩と、二人の取り巻き。

 そして私……三対一での、指導という名の模擬戦を行う事になった。


「ク、クラウ……」


 ミーティアとキルネイリアが、準備を始めた私のもとに駆け寄ってくる。

 心配、不安……色々と入り混じったような表情で私を見る。

 ごめんね、ひどい事を言った。


「なに?」


 屈伸運動をする私は、素っ気なく言う。


「なにって……どうしてこんな事」


「そ、そうです……私だって戦え――」


 ミーティアもキルネイリアも、言いたいことは沢山あるだろうけれど。


「分かってるわ。勝手に決めて悪かったと思ってる。でも、万が一にも負けられないでしょう?」


 もし三対三で模擬戦を行い、一人でも負ければ。

 私もミーティアもキルネイリアも、そしてここにはいないミオまでもが被害を受ける。

 それだけは避けなければならない。

 口論に入れば、おそらくそのまま組伏される。

 ならば、例え三対一の状況でもいいから、私が戦える状況を作らなければいけなかった。


「それはそうだけど……」


 悔しそうに唇をむミーティア。

 キルネイリアも下を向いている。


 分かるわよ、気持ちでは私も一緒に戦いたいわ。

 でも、負けることは許されない。

 負ければ、一年首席の私が“負けた”と言うことが広まり。

 ミーティアは、トレイダが“女”だったという事が広まり。

 ミオは、“依頼をすっぽかした”という事が広まり。

 キルネイリアにいたっては、もしかしたら冒険者学校を“辞めさせられる”可能性もある。


「――安心しなさい、負けはしないわ」


 この学校に入学してからそろそろ一ヶ月半、私は勉強を欠かしていない。

 あの男が得意とする戦法も、予習済みよ。

 ミオやミーティアの対魔物クラスと違って、総合クラスは対人戦もあるからね。

 完膚かんぷなきまでに倒して、あの依頼書のなぞも解明する。


 そんな事を考えている私に、キルネイリアが遠慮気味に言う。


「クラウ。坊ちゃん……ロッド・クレザース――いえ、【クレザースの血】に……お気をつけ下さい」


 ミーティアと違って、キルネイリアは切り替えが早くて助かるわね。

 その情報を私につたえるという事は、勝ちたい……のでしょうね。


「――ええ、知っているわ。魔力に過剰反応かじょうはんのうを示す……異常な血。貴女あなたにも流れる血ね」


 遺伝子的には、なのかしら?


「……はい。その血は、特に魔法の道具に反応を示します。私は血が薄いので……使えませんが」


 確かに、キルネイリアの魔力の波動はロッド先輩とよく似ている。

 するどい人なら魔力で気付くし、多少の話はミーティアに聞いているしね。


「任せなさいキルネイリア、貴女あなたの道を閉ざさせはしないわ」


「――ですが」


「ミオとミーティアの頑張りに、私が勝手に乗るだけだから。何も気にしなくていいわ。ミーティアも……いつまで気にしてるのよ」


 ミーティアは眉根を寄せながら、心苦しそうに言う。


「……分かった、ごめんクラウ……お願い」


 ミーティアは状況を理解しているはず。

 自分の不甲斐ふがいなさも、この状況で何も出来ない心苦しさも、全部理解して。

 それでも、ここから「私も戦う」、などとねばってくるような子ではない。


「――平気よ」


 そう言って、私は二人に背を向ける。

 ロッド先輩と取り巻き、三人が待つ訓練場の中央に……向かうのだった。

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