4-109【クレザースの血4】



◇クレザースの血4◇


 私は、正義感があるとか……そう言うんじゃない。

 冒険者になりたいのだって、自分の目的の為であって誰かの為なんかじゃない。

 でも、こう言うのは許せない……大嫌いよ、こう言う男は。


「なら、こうしませんか?……先輩、私に……指導をしてくださいよ」


 この状況を乗り切る事が出来るのは、私だけだ。

 ミーティアにもキルネイリアにも、言い出す事が出来ないのなら……私が打破する。


「……やる意味がないな」


 そうね。全くもってその通りだわ。

 私だって、何の意味も無いと思ってるわよ。貴方に教わる事なんて、何も……ね。

 だけど、そうもいかないから言ってるのよ。


「――先輩、去年の依頼サポートの成績、結構凄かったですね」


 私が知りうるこの先輩の情報だ。


「ん?ああ、流石さすが首席だという事か……」


 この貴族の青年……ロッド・クレザースは、成績は上位なのだ。

 だが、ミーティアに聞いた話だと……基本的には何もしない。

 評価も低い点数を与えてくる。


 正直言って、他の生徒からもいい評判はないわね。

 でも、この先輩だって二年生に進級した実力者。


 その最大の評価は――魔法の道具使いだ。


「それはどうも。で、どうです?私の言いたい事……分からない訳ではないですよね?それとも……言っちゃいましょうか?」


 すこし生意気な風に、苛立いらだたせてやるつもりで言う。

 その結果学校に報告すると言い出されたらお終いだが、この先輩なら……きっと挑発に乗って来るでしょう。


「ほう……中々いい度胸をしているじゃないか、クラウ・スクルーズ……」


 やっぱり私の事も知っているじゃない。

 ファミリーネームは言ってなかったと思うけど……もしかして、ミオやトレイダを調べる時点で、私も候補に入っていた?

 まぁ、そう考えるべきね。


「で、どうするんです?私に指導……してくれるんですか?」


 私は……この男を叩く。

 指導をしてもらう“てい”で、逆にボコボコにしてやるつもりでいるのよ。


「ふふん。いいだろうっ!先輩の実力を、その小さな身体でとくと実感するといい!」


 あ?どこ見て言った?

 胸、見たわよね?胸を見たわよね!?


「それじゃあ……」


「いや、待て!」


 大袈裟おおげさな手振りで、準備に入ろうとした私を制すロッド先輩。


「――なんです?」


「ふん。ただの模擬戦ではつまらんだろう?せっかく三人いるんだ、わかるだろう?」


「……」


 そう来るのね。もしかして、初めから想定していた?

 取り巻きを連れて来たのも、初めからそのつもりで?


 だけど、ミーティアもキルネイリアも戦える状況じゃないわ。

 意外と計算高いのかしら……あの時気配を見せたのも、私たちの訓練が佳境かきょうに入ってからだしね。


「……」


 私は二人を見る。

 キルネイリアはやる気を見せるけど、多分無理。数十秒も持たないわ。

 ミーティアもそう、魔力を多めに使わせたのが痛かったわね。

 普段なら、きっとまだ動けるのだろうけど。


 仕方ない……ここは心を鬼にして。


「私は……独りで充分ですよ。この子たちは足手纏あしでまといなんで」


「「――っ」」


 この言葉で、二人を傷付けるかもしれない。

 でもお願い、私の意図をんで。


「ほぅ、ふん。じゃあこの話は無しだ。何の意味も無いからな」


 両手を上げて、ロッド先輩は言う

 大丈夫……これも予測の内。

 そんな彼に私は、ふくみ笑いを見せながら返答する。


「そんなことはないですよ。だって三対一で、一年の首席をボコボコに出来るんですよ?それとも……三対一の状況にも関わらず逃げ出すような、情けな~い男だって、言いふらされたいですか?」


「――なんだと?」


 ――乗った。


 貴族とは言え、男としてのプライドはあるようね。

 一気に雰囲気ふんいきを変えた……まるでさっきまでのわざとらしい感じが、演技だったかのようだわ。


 初めから、黙って剣を抜けばいいだけの事。

 何をしたいのかは知らないけれど、回りくどい小細工なんていらないわ……私に勝つ事が出来れば、それ以上の成果が獲得できるのだと……理解しなさい。

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