4-108【クレザースの血3】



◇クレザースの血3◇


 このロッド・クレザースが、わざわざ訓練場ここまで足を運んだ理由は何?

 依頼のサポートを無断で休んだ事をとがめたいのなら、【ギルド】もしくは【冒険者学校クルセイダー】側に直接言えばいい。


 それだけで、ミオの評価はガクンと下がるのに。

 それをしないで、直接キルネイリアに言う理由はなに?

 もし、ここにトレイダがいたらどうしたのかしら。


 もしくは……ミーティアがトレイダだという事も、この男は調べている可能性もある。さっき、ミーティアを見ていたしね。


 それに……どうやら私がミオの姉だという事も、しっかり知っているようだ。

 三年と二年の先輩方、特に三年は……基本的に一年には興味きょうみを持っていない。

 自分がB級冒険者のライセンスを取得できるかどうかの瀬戸際せとぎわなのだ、一年の名前まで憶えている人は少ないって、他の二年の先輩が言っていたわ。


 首席の私はともかく、ミーティアの事まで調べているのなら、絶対に何かをたくらんでいるという事だと、予測できる。

 でも、その理由が分からない。


 目の前で困惑するミーティア、そしてキルネイリアを見下げるその視線。

 いかにも貴族のクズって感じで腹立たしいわ。

 これなら、田舎の農民の方が遥かにマシね。

 でも、変な違和感の事もある……下手には口出しできない。


「さて、どうしようかキルネイリア。お前の友人、ミオ・スクルーズのしでかした事、報告するべきだよなぁ?」


「そ、それは……ですが、ミオは今……他の依頼のサポートを――」


「――だぁかぁらぁっ!」

「それがヤバいって言ってんだろう!?」


 今まで無言だった取り巻き二人が、圧をかけて来るように大声でキルネイリアを怒鳴どなる。


「……で、ですが……」


「そういう事だよキルネイリア。黙ってお前はメイドだけ・・をしていればいいんだ……こんなろくでもない男に好かれるから、冒険者になりたいだなんて馬鹿を言い出したんだろう?」


「……!!」


 その言葉に、キルネイリアは息をむ。


「――そんな事っ!!」


 しかしミーティアが、呆然とするキルネイリアの前に立つ。

 ミーティアは気付いたようだ。


 これが、初めから仕組まれた事だと。


「……彼女をあきらめさせるために、こんな回りくどい事をっ!最低です、ロッド先輩!」


「ふぅ~ん。最低かぁ……なら、男のフリ・・・・をして男子寮に忍び込むような、尻軽女には言われたくはないなぁ。だろう?トレイダ・スタイニー」


「――っ!!」


 やはり、調べている。

 ミーティアが一番突かれたくない、弱点だ。


「そ、れは……」


 言いよどむミーティア。

 でも当然なのよ……ミーティアだって、やってはいけない事だと理解して、それでも実行したんだ。

 それに、別に冒険者になる為の不正ではない。

 言い換えれば、今後どうとでもなるわ。


 だから、このまま何も言えない二人の代わりに……私が言う。

 ここから打破する、一手を。


「――なら、こうしません?先輩」


 私は言う……別に、二人をかばうつもりじゃないわ。

 でも、私もミオと同じなのよ……頑張っている誰かをおとしめるような人間、好きにはなれないわ――いえ……ハッキリ言おう。


 ――大っっ嫌いなのよね!!

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