4-107【クレザースの血2】



◇クレザースの血2◇


 この男……私の弟がダブルブッキング……二重契約をしたと言いたいのね?

 この場所に来たのは、わざわざそれを確かめる為?

 契約を無視されたから怒っている、それならば……トレイダ・スタイニーを探せばいい事だわ。まぁ、目の前にいるのだけれど……


「ん~?所で、君は?」


 青年……ロッド・クレザース先輩は、青い髪の少女ミーティアを見て言う。

 それはそうね……トレイダは知っていても、ミーティアの事は知らないのでしょうし。


「わ、私は……ミーティアといいます。キルネイリアさんと同じ一年で、友達です」


 ミーティアもまだ困惑してそうね。

 自分の知らない所で、契約が果たされているのだもの……当然か。


「へぇ――で?そっちの小さい・・・方は?」


 あ?ねぇ今どこ見て言った?どこ見て言った!?

 女は視線で分かんだからねっ!?


「……クラウよ」


「クラウ――ああ、今年の首席か」


 男はわざとらしく、私を見下ろして言う。

 背の低い私を、馬鹿にしているように見て。


「それにしても困ったものだね、ミオ・スクルーズには……依頼サポートを二重で契約するとはさ」


 こいつ……私がミオの姉だと分かって言ってるわね。

 腹の立つっ!


「で、ですが……ミオは、何かの間違いでは……」


 キルネイリアは困惑しながらも、何かの間違いだと男に言う。

 しかし、彼女の主でもある男は。


「――黙るんだキルネイリア。お前の友人だというから、こちらは依頼サポートを頼んだんだぞ?それが無断で他の生徒と契約し、あまつさえこちらの依頼を放棄するとは……しかも、相棒のトレイダ・スタイニーもいないじゃないか」


 今……一瞬だけどミーティアを見た?

 まさか、この男。


「……」


 ミーティアは何も言わない……言えないのよね。

 でも、ここまで好き勝手に言うってことは、それだけその契約書に自信があるようね。

 契約書はどう見ても本物だし、文字だって手書きだ。

 ミオのもので間違いない。


 それはトレイダとしてのミーティアだって思っているはず。

 ならば、本当にミオがそんな事をしたとでも?


 いや……それはない。

 もし、勘違かんちがいをして契約をしていたのなら、事前に謝罪をしているはずだ。

 ミオなら、後手後手になるような可能性は限りなく低いはずだもの。


「それ、本物なの?」


「……なに?君はうたがうというのか?」


 私の発言に……この男の空気、いや雰囲気ふんいきが変わった。

 まるで、私のはっした言葉を……待っていたかのように。


「はっはっは……いやいや、まさか……首席代表とあろうものがそんな事を言うなんてな、流石さすがは依頼すっぽかしの姉と言った所かっ!」


 ふん。やっぱり私の事も調べているんじゃない。

 なら……最初ハナから、そうしなさいよ……じれったいっ!!


「私の弟が失礼をした……その証拠しょうこがあるのなら、頭を下げるつもりはあるけれど……確証が無いと謝罪は出来ないわ」


 ロッド・クレザースは言う。

 笑いながら、私ではなく……キルネイリアに向かって。


「くくっ……この書類が確たる証拠だろう?ほら、サインがしっかりと書かれているじゃないか?なぁ、お前ら」


 取り巻きに同意を求めるロッド。

 二人の取り巻きは笑いながら、媚びを売るように同意する。


 なるほどね、これは……どちら・・・かしら。

 ミオをおとしめたい?

 それともキルネイリアをめたい?

 どちらにせよ、これは……何もなしでは終われそうにないわね、残念ながら。

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