4-106【クレザースの血1】



◇クレザースの血1◇


 キルネイリアが言った「坊ちゃん」という言葉は、戸惑とまどいに満ちていた気がした。

 何故なぜここにいるのか、どうしてここにいるのかという……疑問。


 坊ちゃん……そう呼ばれた青年は、二人の取り巻きを連れて下まで下りてくる。


「……ミーティア、あの男が?」


「え、ええ……でもどうして彼が」


 ミーティアも戸惑とまどってるわね。

 これは、想定外の事……なのかしら。

 しかし、それはどうやらキルネイリアも同じようで、男をその視線で追っていた。


「――やぁ、ここにいたんだな。キルネイリア」


 男は、キルネイリアに笑顔を見せながら言う。

 キルネイリアは緊張した様子を見せながらも、答える。


「は、はい!ですが……お伝えはしてあったはずですが、その……なにか不出来が?」


 自分が何か悪い事をしてしまった……そんな風に取れるキルネイリアの言い方に、私はムッとする。

 好きではないわね、こういうやり取りは。


「いやなに。ところで……ミオ・スクルーズはいないのかな?」


 ミオですって?どうしてミオが?

 依頼のサポートに行ってる筈なのよね?


 私は視線でミーティアに確認を取る。

 ミーティアも意図を理解してうなずき、言葉をはっする。


「イリア、その……」


 あ~、ミーティアだからか。

 この先輩とは、トレイダ・スタイニーの姿でしか会っていないのね。


「あ!はいっ……坊ちゃん、ミオはいませんよ?レイナ・ハブスン先輩のサポートに、朝から出ていますが」


 それを理解してか、ミーティアの代わりにキルネイリアが説明をする。

 しかし、この男は。


「あー!やっぱりそうか、これは大変だなぁー!!」


 笑いながら、演技染みた仕草しぐさで大声を張る。

 他の男二人も笑っている……取り巻きがやけにムカつくわね。


「え……ど、どういう事でしょうか……」


 キルネイリアは深刻そうに顔を険しくさせて、男に言うが。


「あ~あ。大変な事をしたよ、ミオ・スクルーズ……」


 そう言いながら、男はキルネイリアに一枚の紙を渡す。

 その紙を、キルネイリアはまじまじと見る。


 私にも、当然見覚えのあるものだった。

 冒険者学校の生徒なら、誰でも目を通すし、記入する紙……依頼契約書だ。


「――こ、これは……なぜ、ミオの名前が?」


 依頼契約書を持てるのは二年三年の依頼を受けられる者だけ、記入はサポートの際に一年もするが、保持するのは依頼を受けた人物だ。


「ミオの名前?」

「……どうして?」


 私と、ミーティアも不思議ふしぎそうに言う。

 二人でキルネイリアのもとに行き、確認すると。


「――!」


 私も、のぞき込むように紙を確認する。

 そこには確かに、ミオの文字で書かれた名前があった。

 そしてトレイダ・スタイニーの名前も、記入されていた。


 私は小声でミーティアに。


「――どういう事?」


「わ、分からないわよ……こんな依頼サポート、受けて無いものっ」


 でも、この文字は確かにミオの文字だ。

 ミーティアも分かっている、自分の文字に間違いはないと。


「まったく、困ったものだなぁあの男にも。まさか依頼サポートをほったらかしにされるなんて、屈辱くつじょくったらないよ……」


 へらへらと、わざとらしく語るこの男は、ミオがダブルブッキングをしたと……そう決めつけているのね。

 だけど、なにかしら……この変な感じ。

 まるで初めから決められていたかのような感覚……台本と言われたら納得できてしまいそうになるような、そんな感覚だった。

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