4-105【伸びる二人】



◇伸びる二人◇


「――けほっ。ひど砂埃すなぼこりだわ」


 訓練場に巻き上がった砂埃すなぼこりは、私が放った光の魔法――【孔雀貫線光ピーコックレイ】によるものだ。

 自分で放ったとは言え、せきをするほどのもので、視界も悪い。


 けれど、魔力の半分も出してはいない……どうかしらね。

 正直言ってしまえば、キルネイリアって子に……戦いのセンスはない。

 ない……けれど、その想いはつたわったわ。


 ミオが協力する程の人物、それなら見極めないといけない。

 でも、訓練を開始してすぐに分かった。


 このキルネイリアって子は、足掻あがく子だ。

 自分の境遇きょうぐうに悲観せず、未来を見る。

 くさらず、落ち込まず、実力を持てないと分かっていながらも、必死に藻搔もがく。


 ミオの好きそうな人なんだ。

 勿論もちろん、恋とか愛とかじゃないわよ……?

 ミオは、頑張っている人が好き……努力をして夢を追う人が好き。

 才能とか血筋とか、そんな事じゃない。


 田舎暮らしで何もしてこなかったからなのか、それとも単にミオの持つ感性なのか、私には把握はあくできないけれど。

 でも、ミオの見る世界には……こういう子たちが必要なんだ。


 私は、その子たち・・を見る。


「……あらあら」


 砂埃すなぼこりが晴れて、視界がクリアになってきた。

 私はゆっくりと下降し着地する。

 翼を解除して、二人が倒れている間まで歩き……言う。


「ほら起きなさい。伸びている場合ではないわよ?」


「……き、厳しいわね、クラウ」


「は、はい……お願い、します」


 二人は身体を起こし、ふらふらしながらも立ち上がる。


 なんだ……まだまだ元気じゃない。

 まぁそうでないと、私の練習にはならないからね。


「さ、続け――」


「「……?」」


 言葉を途切れさせた私を、二人は見る。


 気配……?見られているわね。

 数は、三人。


「……クラウ?」

「どうしたのですか?まだ、やれますが」


「……そうね、私も動き足りないけれど、まずは――出てきなさい!そこにいるのでしょう!?」


 大きな声を出して、訓練場に響く私の声。

 二人はおどろいているが、せめてミーティアは気付きなさいよ、って……そうか、魔力を使わせ過ぎたのね。


「え?」


 ミーティアは周りを確認する。

 キルネイリアもそうしているが、反応は入口ではなく……別の場所。


「出てこないなら――【貫線光レイ】!!」


 手をかざし、その方向に向けて魔法を撃つ。

 この訓練場は円形状の建物になっており、いわゆるコロシアムのような形と言える。

 客席……と言うのもおかしいが、その二階部分に、私は魔法を撃ったのだ。


「「え!?」」


 ミーティアとキルネイリアの二人は目で追うが、その瞬間には私の魔法が消える直前だった。


 バシュン――!!


「……やれやれ、なんとも危ない真似をするなぁ」


 私の【貫線光レイ】を搔き消した?

 いや、防いだのかしら。


 言葉をはっし現れたのは、少し前から二階席にいたであろう茶髪の青年だった。

 そしてその近くにも、二人の男が寄ってくる。


「――坊ちゃん?」


 キルネイリアが言う。

 確かメイドなんだったわね、という事は……あの男が雇用主こようぬしか。

 だけど……ただ見ていた訳ではなさそうね……この、嫌な視線は。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る