4-104【スパルタ・クラウ3】



◇スパルタ・クラウ3◇


 訓練が始まって、いったい何本の矢をっただろう。

 私は腰に二つの矢筒をしつらえているが、その片方が、もうからだ。


 ちゅうに浮く天使のごときクラウに、矢は当たらない。

 狙いも的確だし、隙も狙っているのに……一向に当たる気がしない。

 辛うじて当たりそうだった矢も、クラウは楽々と【クラウソラス・クリスタル】で斬り払いをする。


「はぁ……はぁ」


 つ、疲れる。


 クラウに言われた通りに魔力を隠そうとすると、異常に魔力を消費する。

 そのせいで、いつもの何倍も魔力の消費をしている気がするのよね。


「――はぁっ!」


 イリアは、肩で息をしながらもクラウに肉薄するのだが、クラウは簡単に翼を羽ばたかせてけてしまう。


「ほっ!と」


 到底、人には無理な動きで地面すれすれを飛行したり、真上に上昇したりと、重力に関係なく飛び回る。


「くっ……届かないっ!ミーティアっ!!」


 短剣の二刀流のイリアでは、宙に浮くクラウには攻撃が届かない。

 クラウが降りて来た時は素早い動きで攻撃をするが、浮いた時は私の出番だ。


「――了解っ!」


 矢をつがえ、る。

 魔力を圧縮あっしゅくさせ、やじりに集中して魔力を注ぐ。

 ちなみに今のやじりは訓練用で、柔らかい樹脂で出来ている物よ。


「ぅ……」


 矢を放った直後、眩暈めまいがした。

 そろそろ魔力が尽きそう……でも、せめて一矢!!当たってっ!

 その願いに応えるように、イリアが。


「――こちらも行きますっ!!」


 イリアは二本の短剣を、クラウに向かって投げたのだ。

 ぶ、武器を投げるなんて……でも、タイミング的に。


「んっ!……しっ!!――はっ」


 時間差で迫る二本の剣と一本の矢。


 ――ガキン!――カキンッ!


 クラウのその不規則な動きは、地上では無理だ。

 反転とバク宙でイリアの短剣を叩き落とし、私の矢を待ち受ける。


 でも、このまま行けば当たる!


「――【魔障壁マ・プロテク】!」


「なっ――!!」


 矢の向かう先はクラウの肩だったのだが、そこに――光の壁が出現した。


 その魔法は、ジルリーネが得意とする防御の魔法だ。

 低燃費で範囲はせまいが、ピンポイントで防ぐ事が出来る魔法。

 それを……クラウが使用したんだ。


 ――キン!!と、矢がはじかれる。

 ポトリと落ちた矢を、私もイリアも見つめる。


 そして……クラウが。


「そろそろ終わりね」


 見下ろすクラウの顔には「一発も当てられなかったか」と言う、落胆が見えた気がした。

 確かに、この時間で一度もクラウに攻撃を当てられなかった。

 私もイリアも、相手にすらならなかったんだ。


 クラウは【クラウソラス・クリスタル】の切っ先をこちらに向けて、つぶやく。


 終了の――言葉だ。


「――【孔雀貫線光ピーコックレイ】」


「くっ、そんな……」


 イリアが歯嚙はがみする。

 私も……小さく「悔しいなぁ」とつぶやいたが、聞かれていないわよね。


 最小の威力ながらも、クラウが放つ無数の光線は……問答無用で私たち二人に降り注ぐのだった。

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