4-103【スパルタ・クラウ2】



◇スパルタ・クラウ2◇


 スパルタ鬼コーチの訓練は、始まったばかり。

 以前、私とミオとで何度か行った訓練では見られなかった程の気合を見せるイリア。

 私も……乗せられるように、それに続く。


 私の得物えものは弓だ。

 【魔導弓マギアロー】と呼ばれるもので、通常の弓とは違い魔力を注ぐことで、その命中精度を上昇させる事が出来るのだけど。

 実は、物凄く高価な物なの。


 私はその【魔導弓マギアロー】に魔力を注ぎ、矢をつがえる。

 絶え間なく動き続ける標的クラウに狙いを定め、る。


 パシュ――!!


 クラウはイリアと対峙たいじしている。

 その隙間を狙ったが。


「――ふっ!」


 クラウはこちらを見ないまま、右手にかがやく剣【クラウソラス・クリスタル】を振るう。


「み、見ないで!?」


 バキッ――!!っと、簡単に折れる矢。

 ちなみに、私は急所を狙っている……イリアも自前の剣だし、クラウだってそう……三人共、真剣よ。


「魔力を隠す事を考えないと……ねっ!!」


「くっ!は、早いっ」


「――ど、どこに」


 私もイリアも、クラウを見失った。

 どこ!?魔法の名前もなかったし、それこそ魔力の反応も無かった。

 さっきとは全然違うじゃないっ!


「……」


「どこにっ」


 周りを警戒するも、どこにもいない。

 先程のようにちゅうに跳ねた?……いない。

 訓練場のどこにも、その姿はない。


「ク、クラウっ!?」


「――なに?」


 ――え?


 真後ろから、透き通るような声が耳に入った。

 その声に、私はバッ――っと振り返る……しかし。


「え……いない?」


「ミーティア!上ですっ!」


 上?さっきと同じ?

 私はイリアの言葉に、上を向く。


 そこには……天使がいたのだ。


「……ク、クラウ」


「なに?」


 翼を持ち、羽ばたかせて滞空たいくうする。

 光の剣を構えこちらを見る姿は、天使と見間違うほどの雰囲気ふんいきかもし出す、小さな少女だった。


「――そう言えば、この魔法は見せてなかったっけ?」


「う、うん」


 もはや神々こうごうしい。

 この世界の人間ではないようだった。


「【天使の翼エンジェル・ウイング】って言う魔法よ……つまらないくらいそのままな名前だけれど、こうやって空を飛べるわ。ほら、当てて見なさい?その弓で」


 フッ――と笑い、私を見下ろす。

 口にはしないが、「当てられるものなら」と挑発された気がした……いや、された。

 そう気付いた時には、私は【魔導弓マギアロー】を構えていた。


「へぇ、そういう面もあるのね。いいわ、キルネイリアもまとめて、私が面倒を見てあげるっ!かかって来なさい!!」


「……い、行きますっ!」


 イリアも短剣を構えてクラウを見る。

 そうよね、悔しいものね。

 だから、クラウ……私たちだって、ただでは終わらないわよ。

 私だって、冒険者を目指しているのだから……ミオの隣にいられるように!


 目標を目指し、夢を追い、そして――恋を叶える為に。

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