4-102【スパルタ・クラウ1】



◇スパルタ・クラウ1◇


「――動きが遅いわっ!!もっと早く!」


「「は、はいっ!」」


 私とイリアは、早速クラウから訓練を受けているのだけど……

 くっ……鬼コーチだった。

 ミオとの訓練が生易なまやさしかったと、初めて実感したわ。


「――【貫線光レイ】!」


 訓練という事で、剣も持っていないクラウ。

 しかし、私もイリアも……手も足も出ない。

 飛んでくる光線は最小の威力であり、当たっても痛みはないけれど。

 でも、少しの熱量で「あつっ」と声が出るくらいはダメージがあった。


「――くっ……」


 目に見えた瞬間には、身体に迫る光線。


 ――ジュッ!!


「あっつ!」


 私の肩に熱が直撃した。

 痛みはないけれど、咄嗟とっさに「痛い」と言ってしまうようなものだ。


「――貰いますっ!」


 私に視線を送っていたクラウの背後に、イリアが迫る。

 素早い動きだ……私ではついていくのが精一杯なスピード。

 ハーフエルフであるイリアは、魔力にとぼしい。

 それをおぎなおうとして自分で考えた結果だろう。

 だけど、それもクラウにとっては。


「ふっ――!」


 ブン――!と、イリアの木剣ぼっけんが空を切る。

 私からは見えていた、クラウは跳躍ちょうやくしたんだ。

 軽く、舞い上がる羽のように。


「なっ!どこにっ」


 イリアには見えなかったらしく、それが目の良さではおぎなえない……魔力の残滓ざんしでの追跡だと分かってしまった。


 私は、目では追えないスピードでも、魔力の動きで追う事が出来る。

 イリアは素早く動けるが、魔力が少なく操作もぎこちない。

 だから、クラウの動きを追えなかったんだわ。


「――【貫線光レイ】」


 声はちゅうから。

 イリアが気付いた瞬間には、肩から足にかけて……光の線がつらぬいた。


「あぐっ――」


 威力は最小……ダメージはほとんどないはず。

 だが、イリアは。


「……うっ、く……」


 ひざを着いて、苦しむ。


「キルネイリア!?」

「イリアっ!?」


 着地したクラウも、少し離れた私も……慌てて駆け寄る。


「大丈夫?」


「ごめん……もしかして、調節間違えた?」


 クラウがそんなミスをする訳はない……きっと。


「い、いえ……私の魔力が低いのがいけないのです。ハーフエルフなもので……」


「ハーフ?」


 イリアは言う。

 もう、クラウにも隠すつもりはないらしい。


 イリアは髪で隠れた耳を、クラウに見せる。

 ほんの少しだけとがった、人間よりは長い耳。

 しかし、それも特徴的というほどではない。

 有体ありていに言えば、ほぼ人間と変わらない。


「はい。私は、人間とエルフのハーフです……なので、魔力が極端に低くなっているんです」


「なるほどね。だからこの程度・・・・の威力でも、精神……魔力にダメージが入るのね」


 クラウ……出ちゃってるよ。


「――あ。ご、ごめんなさい……悪気は無くて」


 よかった、気付いてくれた。

 でもきっと、言われたイリアも分かってるはず。

 クラウに悪気がない事くらい。


「いえ……むしろもっと、本気でお願いします……!」


 本気って……イリア。

 クラウが本気で戦ったら、私は勿論もちろん……ミオだって分からないわよ?


「……いい覚悟ね。私も色々と勉強しているし、ハーフの事も知ってるつもり。私は別に、貴女あなたがハーフだから……とか、弟の知り合いだから……とかで遠慮えんりょはしないわよ。その覚悟……見せてもらうわ」


 そう言って、クラウはイリアを立たせた。

 そしてその想いは……私にも飛び火するのだ。


「それじゃあ……少し本気になるから、ミーティアも覚悟をしなさい……スパルタで行くから」


 ブゥン――


「「え」」


 ねぇクラウ、これって訓練……だよね?

 その右手にかがやいているのって……【クラウソラス】じゃない?

 こうして、私とイリアの……スパルタな訓練が始まるのだ。

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