4-101【心強い手助け】



◇心強い手助け◇


 訓練場に現れたのは、イリアではなくクラウだった。

 それも結構な汗をかいてだ……それだけで、クラウがここまで急いで来たのだと、私はさっせた。


「ど、どうした……んですか?クラウ、さん」


 戸惑とまどいのせいで、口調が戻ってしまっていた。


「あ~そうか、トレイダ……なんだものね」


 クラウはしゃがみ込んで汗をぬぐう。

 チラチラと、訓練場を見渡して。


「そういえば初めて来たかも、この場所」


 依頼のサポートを中心に、二年生からのスカウトも多いだろうからね、クラウは。

 だから訓練なんてしてるひまも無かったのだろう。


「僕は、ここ最近多く来てましたよ。それこそ弟さんと」


「……」


 え!?なに?どうしてそんな目を?

 クラウはジト目で私を見る。

 違和感、かしら……それじゃあ。


「えっと……変身解きます?」


「そうしてもらえると助かるわね、昔のミオと話しているみたいで気が散るから」


 あはは……クラウらしい。

 私は周りを確認し、誰もいない事を確認すると。


「【幻夢の腕輪】……解除っ」


 注いだ魔力を抜き取る感覚で、腕輪の魔法を解除する。

 まばたきをする間もなく、ミーティアの姿に戻る。


「へぇ……魔力の屈折くっせつを利用してるのね。これは使えそう」


「な、何に?」


 でも流石さすがクラウだわ……【幻夢の腕輪】の仕様が瞬時に分かるだなんて。


「いや、まぁ……色々とね」


 自分の手のひらを見ながら、クラウは何かを考えていた。

 私は気になって聞こうとしたのだけれど、クラウは急に我に返って。


「――あ。それでさ、ミーティア」


「え?なに?」


「……待ち人、まだ来ないの?」


 え?イリアの事……よね?

 どうしてクラウがその事を気にするのかしら。


「そうね、まだ来てな――あ、来たわ」


 なんとも丁度いいタイミングで、入口にイリア……キルネイリア・ヴィタールの姿が見えた。


「ミーティア……?で、いいのですか?」


 今日は冒険者姿のイリアは、私がトレイダでいない事、そしてもう一人の人物……クラウがいる事にソワソワしているようだった。


「ええ。今日はいいの……あ、イリアがトレイダの方がいいって言うなら、戻るけど?」


 私はわざとらしく、ウインクをする。


「い、いえ!ミーティアのままで。私も……こちらの方が気が楽ですし」


 胸の前で両手をブンブン振り、可愛らしい仕草しぐさをするイリア。


「――貴女あなたがキルネイリアね。私はクラウ・スクルーズよ」


 私の隣でしゃがみ込んでいたクラウも、イリアに自己紹介をする。


「え、ええ。存じています……私はキルネイリア・ヴィタールと申します。で、ですが……えっと」


 イリアは私を見る。

 「どういうことでしょうか?」とうったえてくるのが嫌でもつたわる。

 でも、残念だけど私にも分からないのよね、クラウがここにいる理由。

 まだ聞いていなくて。


「ねぇクラウ。今日はどうしたの?依頼のサポートは?」


「ここにいる時点で断ったに決まってるでしょ。私も……気にはなってたし、それに……」


 視線は私に向けられる。

 私……?気になっているって……もしかして。


「クラウ――」


 もしかして、この前の事を気にして……と、私が言おうとしたのだが、クラウはさえぎるように。


「――い、いいでしょ、別に。私が見てあげるわ、二人の訓練をっ」


 ほほを赤くして言うクラウ。

 自分でも気付いたのか、途中でそっぽを向いた。

 ああ、やっぱりそうか……この前の事を、私の事を……クラウも気にしてくれているんだね。

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