4-100【一人の部屋】



◇一人の部屋◇


 ミオが【ステラダ】をったその後。

 ミーティアもまた、一人で本日の準備をしていた。

 彼が出かける際に言葉をかけられて、自分も「しっかりしなければ」と言い聞かせる事が出来た。


「私も自分に出来る事を、任された事を。ミオと同じ、目の前の事に集中しよう……それが、きっと一番大事な事だものっ!」


 なにせここ数日は、クラウに話してしまった自分の未来が頭を離れず、きっとおかしいと思われただろう。

 ミオにも心配をかけていたと言う自覚がある。


 しかし、そんな未来よりも……それを変える為に奔走ほんそうする方が、絶対に大事だと気付いた……気付かせてもらったのだ、ミオの言葉に。


「私は、ミオに考えて貰えてる……それだけで嬉しい。だから、私がやれる事をしよう。ここにいるのは、私なんだから」


 それを挽回ばんかいするには、こうして【ステラダ】に残った自分が、やれる事をしっかりとやっていくしかない。

 その結果、帰って来たミオを安心させられれば、何も問題はないと考えている。


「――よしっ……準備完了っと。あとは、【幻夢の腕輪】……発動」


 独り言を言いながら、ミーティアは準備を終えた。

 ミーティアは立ち上がり、腕輪に魔力を注いで光を発生させる。

 光はミーティアの身体にまとい、魔力を屈折くっせつさせて形を変貌へんぼうさせたように見せる。


 一瞬でトレイダ・スタイニーへと変身し、ミーティアは気合を入れる。

 パン――っとほほを叩く。


「――頑張ろう。ミオを失望させない様に、自分を嫌いにならない様に……」


 そう言ってミーティアは部屋を出た。

 向かう場所は……訓練場、キルネイリア・ヴィタールとの待ち合わせ場所だ。





 トレイダとなったミーティアは、訓練場に着いた。


「まだ来ていないみたいだね」


 ミーティアは、誰もいないが口調を変える。

 万が一誰かに見られたら、変な人と思われる可能性があるからだ。

 それでなくとも、ミオとトレイダは地味にうわさが立っている。

 相棒なのに、物理的に距離が近すぎる……と。


 女としてならそれもアリだ。

 むしろあって欲しいくらいなのだが、うわさはトレイダとしてだ。

 だが、一年生では最年少であり、また端正たんせいな顔立ちのミオが注目されない訳はなく、女子からの人気もあるのは事実。

 トレイダとのうわさが、逆に女性を近づけない様にしていたという事もあって、否定しづらくなってしまっていたのだ。


(まぁ、ミオは自分の事で手一杯だったから、気付いてなかっただろうけど……)


 それも今だけだ。

 ミオは、自分の事を考えるよりも他人の事を考えている時の方が行動力が増す。

 現に、イリアの事を考え始めてからのミオは、積極的に動いて失敗も減っている。


「……」


 準備運動をしながら、イリアを待つトレイダ。

 しかしそこに……イリアではない人物が先に来た。


 暗めの金髪……珍しくポニーテールではなく、ツインテールで。

 サラサラと流れる金髪のツインテールは、低めの身長にマッチしている。

 簡単に言えば……金髪の幼女だった。


 おどろくミーティアは、口調も忘れて。


「え――ク、クラウ?どうしてここにいるの?」


「……よかった。ここにいてくれて」


 安心したように、ホッと胸を撫で下ろしたのは。

 ミーティアが初めて親友と呼べると思っている……金髪の幼女、ではなく……一年生首席――クラウ・スクルーズだった。

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