4-99【冒険者の末路】



◇冒険者の末路まつろ


 俺とレイナ先輩は、冒険者の女性の遺体をそっと運ぶ。

 場所は、【ガルパー湖】の入口付近……みずうみだ。


 グレンのオッサンは、俺がおりに閉じ込めた【サミダーク】を観察しているはずだ。

 でもって俺たち二人がこうしているのは、そのグレンのオッサンの指示だ。

 安全が確保できたから、先に行けってさ。


「こんなところにしか埋葬まいそう出来ないんですね……」


「そーだね。悲しいし可哀想かわいそうだけど、この状態じゃ街には連れて行けないから」


 大きくふくらんだお腹には、魔物の卵が大量に入っている事だろう。

 宿主やどぬしが死んでも、その肉を食い破って出てくる……オッサンはそう言った。

 だから、その前に処理をしなければならない。


「――【無限むげん】っ!」


 みずうみ近くの開けた場所に、それらしい穴を開ける。

 深く、広く……底は平らに。


「お願いしますっ」


「分かった、降りるね」


 俺の言葉に、レイナ先輩がゆっくりとここまで降りてくる。遺体をかかえてだ。

 小柄だった女性の遺体は、レイナ先輩でもかかえる事が出来た。

 しかし傷んでしまった身体は、今にも崩れてしまいそうだった。


「大丈夫ですか?」


「うん。同じ女だからね……これは男の子にはさせられないから」


 そうだ、俺たちは遺族じゃない……冒険者を目指す学生だ。

 その冒険者が命を落としていたんだから、俺たちが手向けをおくらなければ。


「ここに寝かせればいいね?」


「はい。それじゃあ……上に戻りましょう」


 二人で上に戻り、そして俺が。


「それじゃあ、火をかけます。大きい音が鳴るんで、耳を」


「うん」


 俺の言葉に、レイナ先輩は耳をふさいでくれる。

 本当は、能力の名前を隠したかっただけだけど。


「――【煉華れんげ】」


 炎の能力――【煉華れんげ】。

 俺は魔力を極力内包させた、小さな火種を作り出した。


「――安らかに、眠ってください……遺品は、必ずご家族に届けますから」


 合図をすると、レイナ先輩は耳を開放し、両手を合わせ膝を着く。

 俺は火をかける役目だ。

 すでに亡くなっているとはいえ、人体に火を放つのは心苦しい。


 でも、そうしなければ……あの女性の身体から魔物が産まれてしまう。

 それだけは、絶対にさせてはいけない。


「行きます……どうか、安らかにっ」


 祈りながら、穴の中に……【煉華れんげ】の火種を投げ込む。

 すでに穴は【無限むげん】で縮小させているから、投げた炎はご遺体に降りかかるはずだ。


 死者への無礼とも思えたが、グレンのオッサンいわく……遺体をほうむって貰えることこそ、死した冒険者の幸福なんだとさ。


「――これが……しくじった冒険者の末路まつろだ。覚えておけよ、ガキ。嬢ちゃんも」


 戻って来たグレンのオッサンは、燃え上がっていく炎柱を見上げながら、俺たちに言う。


「オッサン……」


「はい……心に刻みます」


 冒険者の末路まつろ

 犯され、死に、魔物を産む。

 助けられても、重度の精神障害に苦しむ。

 俺たちにほうむられた彼女は……きっとまだ幸せなんだ。


 そう思いながら、俺たちは帰路を行く。

 早いようで長い一日が、こうして終わったんだ。

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