4-98【考えないで行動した結果】



◇考えないで行動した結果◇


 【サミダーク】の駆逐くちくを始めた俺は檻に閉じ込めていなかった数体の【サミダーク】を【石の槍ストーンスピア】で撃退する。


 どさりと倒れ、次の瞬間には魔力になって霧散むさんする魔物。

 しっかりと素材を落として。


「【無限むげん】の操作もだいぶ慣れて来たな……っと!」


 レイナ先輩は沼から出て来た援軍の残りを撃退している。

 もうすぐ倒し終わって、冒険者のもとへ行けるはずだ。


 それを確認して、俺は足場の泥の数値を元に戻し、魔力のリソースを【魔物檻モンスターケージ】に再度注ぐ。


 その瞬間。


「――きゃっ!」


 トスン――と、レイナ先輩が泥に足を取られて転んだ。


「あ……やべ、早かった」


 尻餅をついて、泥で下半身をらすレイナ先輩。


「――下着がぁぁぁぁ!」


 すんません。マジですんません。


「――よくやったな、ガキ」


 内心で平謝りする俺のもとに、グレンのオッサンがやって来る。

 なぁそれどっちの意味?

 魔物を倒して?それともスカート?


「土で出来たおりか……随分頑丈だな」


 あ。そっちか。


「オッサンが殺すなって言うから、一応生け捕りにしたよ。これなら生態調査も出来るだろ?」


 そういう事だ……不意の戦いにはなったが、本来の目的は【サミダーク】の調査だからな。一匹でも残っていれば、依頼は失敗にはならないだろうと考えたんだよ。


「それよりも、冒険者の人は?」


「……今嬢ちゃんが見に行った……が、駄目だめだろうな」


 レイナ先輩が、魔物が出てこない事を確認しながら岩の陰に行く。

 オッサンはさておき、俺も行こう。


「レイナ先輩……どうで――」


「……」


 フルフルと、首を振るレイナ先輩。


 そこに在ったのは、遺体だった。

 冒険者の女性……二十代半ばの、綺麗だったであろう女性。


「うっ……ひどい」


「自害したんだよ、魔物に自由にされるくらいならって……このナイフで」


 遺品とみられるのは、泥のついた短剣と切り刻まれた衣服の欠片。

 それと、この女性のかばんだ。


「自分で首を切ったのか……」


 彼女の身体には、魔物に襲われたであろうひどい傷があった。

 それだけではなく……お腹が大きくなっていたのだ。

 もう、予測出来てしまう。


「――産卵されてるな。もう遺体も運べん……この場で処理するしかないぞ」


「オ、オッサン……」


 きっとグレンのオッサンは、もう分かってたんだ。

 あの時この人の影が見えた時には、もう命が失われていると。

 だからレイナ先輩が転んだり、俺がもたついていても何も言わないんだ。

 それは……きっとレイナ先輩も同じで、分かっていたんだろうな。

 もう、遅いと。


 だったらこれ以上の被害が増えない様に、冷静に……ゆっくりでもいいから、彼女の遺体を処理しようとしたんだ。


「……」


 俺だけが、まだ助かると思ってたのか。

 こういう世界なのだと、思い知らされた。


 自分は転生して、チート能力をてんこ盛りで持っている。

 そう簡単に死ぬわけがない……そう思っていたんだ。

 何も考えていなかった。


 頭を使って考えていれば、以前のように壁にぶつかり。

 今回のように深く考えなければ、このように思い知らされる。


 難しすぎだろ……異世界。

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