4-97【沼地の戦い2】



◇沼地の戦い2◇


 レイナ・ハブスンの槍による一閃は、【サミダーク】を吹き飛ばした。

 その吹き飛んだ【サミダーク】は、沼にドボン――!と落下する。

 しかし、その衝撃で……


 ザバッ――!ザバッ!ザバッ!!


「げぇっ――!!」


 沼の中にいた他の個体も外の様子に気付き、陸へ上がって来たのだ。

 結果的に、倍以上増えた。


「嬢ちゃん!捕まるなよっ!犯されるぞ!!」


「ハ、ハッキリ言わないで下さいよぉっ!」


 レイナは距離を開けて【サミダーク】を警戒する。

 ちらりと槍の穂先ほさきを見ると、ぬめっとした液体がついていた。


「刃が通りにくいっ……」


「――【サミダーク】の魚肌は潤滑液じゅんかつえきになってんだ!衣服を溶かす溶解液も吐くからな!」


 それはレイナも理解している。

 レイナだって、一年間冒険者学校で過ごしてきた実力者だ。

 こういった魔物と戦うのも初めてではない。


 だが、目撃してしまった。

 倒れる冒険者を……同じ女性を。

 たったそれだけだが、自分もああなるかも知れないという恐怖が生まれてしまう。


「くっ……魚のくせにぃっ!」


「ぎしゃぁ!!」


 【サミダーク】の口から、何かが飛び出た。

 ――溶解液だ。


「当たんなよ!?」


「――分かってますっ!」


 指示を出すグレンは後方から見ている。

 依頼者のグレンもA級の冒険者とはいえ、余程の事がない限り直接的な行動が出来ないのだ。

 普通の依頼ならばともかく、これは学生への依頼……点数に関わるからだ。


「ぎしゃぁっ!」

「ぎしゃ!!ぎしゃっ!」

「ぎしゃしゃ!」


「――うるっさいなぁ!!」


 レイナは飛んでくる溶解液に当たらない様に、小刻こきざみに動いて槍を振るう。

 先程までは泥などで動きにくかったが、急に足場が安定しだした。


 後輩……ミオ・スクルーズだ。

 少し離れた場所で右手をレイナの方にかざして、【無限まほう】で足場を整えたのだ。

 これにはレイナも気付いており、「ナイスサポート」と褒めてあげようと思った。


「はぁぁぁっ!!」


 斬りが駄目だめなら突きだ。

 レイナは得物えものである槍【アブレートスピア】を半魚人に突き刺して、そのまま魔力を籠める。


「ぎゃしゃぎゃっ!!?」


 潤滑液じゅんかつえきで滑る魚肌になんとか刺さった槍。

 その穂先ほさきに魔力を籠めたのだ。

 すると、【サミダーク】は急にガクガクと震え始め、痛いのか暴れ始める。


「――ふっ!!」


 槍を押し込み、そのままドンッ――!と吹き飛ばす。

 今度は沼にではなく、後方だ。そちらには……ミオがいる。


「――【地面の剣山グランドソード】!!」


 ミオもレイナの意図を理解して、【無限むげん】で地面を操作した。

 【サミダーク】が倒れてきたその場所に、土の剣を出現させたのだ。


「――ぎゃぎゃ!」


 短い断末魔だんまつまと共に、半魚人は動きを止める。

 全身をつらぬかれ、血飛沫ちしぶきを噴き出させながら絶命する。


「ナイスミオくん!頼れるっ!」


 サムズアップをミオに向けて、レイナは笑顔を見せる。

 ミオも「ふんっ」とサムズアップを返し、レイナは冒険者のもとへ駆けた。

 そして、ミオは他の個体を駆逐くちくしていくのだった。

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