4-96【沼地の戦い1】



◇沼地の戦い1◇


 沼地の影に、倒れている人の足を見た。

 それは女性のものと思われ、見えるのは地肌だ。

 横たわっているのか、それとも岩にもたれているのか、こちらからでは判別できない。


「――冒険者だな」


 グレンのおっさんが、マジトーンで言う。


「……【クルセイダー】には届け出は出ていないから、多分フリーの人です」


 グレンのオッサンの言葉に、レイナ先輩が答えた。

 つまりは、生徒ではない他の冒険者。

 個人冒険者という事だ。


「【ステラダ】にもそう言った掲示は出てねぇな。他の街か、他の国か……どちらにせよ、あれじゃあ生きてるかも分らんぞ?」


「助けないんですか?」


「生きてれば助けるさ。だがどちらにせよ、死んでても遺品は回収せにゃならん。それが冒険者だ……行くぞ。【サミダーク】を討伐するっ!」


「「はいっ!」」


 死んでいる可能性が高い……それは冒険者の、末路だ。





 俺とレイナ先輩は岩陰から飛び出して。

 グレンのオッサンは指示だ。


「ガキはとことん戦えっ!嬢ちゃんは冒険者の生死確認を優先っ!」


「了解っ!」

「分かりました!!」


 流石さすがにA級の冒険者だ……指示も的確だし、思考も早い。

 俺もレイナ先輩も文句も無くしたがい行動に移す。


「レイナ先輩!敵を引きつけますから、その隙に冒険者の所にっ!」


「分かった~!頼むよっ!!」


 さっきまでは、気配を察知さっちされない距離からの観察だったが、俺たちが近付いたことで【サミダーク】もこちらに気付いたようだ。


「「「ぎしゃぁぁぁぁぁ!!」」」


 【サミダーク】の武器はするどい爪に牙、そして尾での一撃。

 口からも溶解液を出すらしいから、要注意だ。


「――行くぞっ!半魚人野郎っ……【極光弾オーラショット】!!」


 【極光きょっこう】の光を右腕にまとわせて、思い切り振り抜く。

 ラリアットの素振りのような動作で、一番近い【サミダーク】目掛けて光弾を飛ばす。


はじけろっ!!」


 今や【サミダーク】は十体以上いるので、一体のみを対象にする攻撃ではらちが明かない。

 だから、【極光弾オーラショット】を破裂させる事にした。


 ブゥン――と奇妙な音を出す光弾は、【サミダーク】に接触する直前に破裂した。

 閃光弾のように一瞬だけ光ると、はじけた無数の粒子りゅうしは前方に進み、広範囲の攻撃となって【サミダーク】を襲う。


「「「ぎしゃぁぁぁぁぁっ!?」」」


 【サミダーク】の身体に、幾つもの斑点はんてんが出来る。

 それは、【極光きょっこう】で焼けた跡だ。

 しかし小さくなった光弾の威力は低くなっており、一撃で倒せるダメージでは無かった。


「ダメージは通ってるし、タゲは取っただろ!!」


 その数……十三体だ。

 全体的にダメージを与え、【サミダーク】の敵意は俺に向いた。

 だから俺が走り出すと、【サミダーク】は群れを成して俺を追いかけてくる。


「そうだ!こっちに来い!!」


 湿地帯しっちたいの地面はぬめぬめで走りにくいし、たまにブーツが埋まる。

 だけど、俺には【無限むげん】がある。

 【サミダーク】を視野に入れながらも、俺は左手の指でメモリを操作するように動かす。

 やっぱり、脳内でやるよりも動作にすると簡単だな。


「――【魔物檻モンスターケージ】!!」


 咄嗟とっさに出た名前にしては、及第点ではないだろうか。

 追ってくる【サミダーク】の一帯に、地面の数値をいじって檻を作る。

 多少の隙間はあるが、【サミダーク】の大きさなら逃げられはしないはずだ。


「よしっ!動きは封じた……後は増援が出ない事を――」


「――おいガキ!!急いでこっちに来い!!沼からまた出てくるぞ!!」


「……」


 フラグだった……言わなきゃよかったよ。

 そんなことを内心で言いながら、俺は駆け出した。

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