4-95【サミダーク3】



◇サミダーク3◇


 【ガルパー湖】に生息する、半魚人【サミダーク】。

 奥の沼地に生息する魔物だ。その生態にはまだまだ謎が多く、こうしてグレンのオッサンの様な物好きがいなければ、生態調査なんて行われないだろう。

 なにせ、女性に……いや男にも実害があるのだから。


「あ~付いてんなぁ……」


 一体目の【サミダーク】が現れた後、続けて三体もの【サミダーク】が沼から上がってきた。

 オッサンは興奮こうふんしながら観察を続けているよ。


「ミ、ミオくん!……言わないでよ、そう言う事~」


「あ――す、すいません……」


 俺が「付いてんな」と言った意味を理解してか、レイナ先輩に怒られた。

 って、レイナ先輩もガッツリ見てんじゃん。


(なるほど……あれで卵を植え付けるんだろうな)


 簡単に言えば生殖器だ。

 でも、オスとかメスの概念がいねんは?


「珍しいなぁ……おいガキ、あれはメスだぞ。○○○ピー―が見えるだろ?」


「く、口にすんなよっ!」

「こらぁぁぁぁぁ!!グレンさぁん!!」


 俺が「付いてる」で抑えたのに、口にしやがったこのオッサン!

 修正ものだぞ!ピー音だぞ!


「……最っっっ低!」


 ほらぁぁぁ!レイナ先輩に白い目で見られてるから!オッサン!!


「しかしだなぁ。あれを見てみろ!ご立派だぞ!?」


 おう、ご立派ぁ!じゃねぇんだよ!!


「――るせっ!!黙って観察してろ!セクハラオッサン!!」


 つーかメスに付いてんのかよ。

 卵を植え付けるんだから、そりゃそうなのか?

 俺が疑問を口にしないで我慢してたのに、オッサンときたら。


「魚と一緒だよ。メスが卵を植え付け、オスが精を出す……それを人間にもするって話だ。他の魔物や動物なんかにも行為をして来るから、嫌われ魔物なのさ」


 くそ……聞くだけでも嫌なんだが。

 でも、まぁ勉強にはなる。

 なんの?……俺も知らん。


「魔物は、【魔力溜まりゾーン】から生まれるんだよな?生殖行為なんて必要なのか?」


 これは俺がジルさんから教わった知識だ。

 魔物の出現は自然ではない……魔力が多く溢れる場所、それが魔力溜まり……【ゾーン】と呼ばれる場所なんだとさ。


「はぁ?だから調査するんだろーが?」


「う、そりゃそうか……」


 魔物の生態は、何年っても謎だらけだと言う。

 こうして【魔力溜まりゾーン】から生まれ、本能のままに行動し、しかし生殖行為をして繫殖もする。

 死の際は消滅し素材へと変質だ……まったく意味が分からないぞ。


「【サミダーク】同士は行為をしないからな、あくまでオスとメスが共同で、他の生き物に卵を押し付けるんだからな」


 エロ同人かよ……読んだことねぇけど。


「――げ、また増えてきたぞ……」

「うわぁ~……」


「だな。もしかして、身体を乾かしてんのか?」


 メモを取るオッサンに、引き気味の俺とレイナ先輩。

 肉体的には平気だったが、どうにも疲れるな……精神が。


「――おいガキ!あれを見てみろ!」


「なんだよ……【サミダーク】がまた増えたんだろ?」


 そう思って、俺は適当に返事をしたのだが。

 グレンのオッサンは。


「――ちげぇ!!その奥だ!足が……人間の足・・・・がある!!」


 は?


「……マジじゃん」


「あれって、もしかして……ぼ、冒険者?」


「そうだな。別の依頼でここに来てたんだろ」


 沼地の影、大きな岩の隙間に、人間の足……恐らく冒険者、しかも女性と思われるものを……俺たちは見つけてしまったのだった。

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