4-93【サミダーク1】



◇サミダーク1◇


 ズシッ――背に乗せられる、大荷物。


「おいオッサン!重いんだが!?」


 グレンのオッサンが、俺の背に先程の素材を持たせたんだ。


「いいから持てって!コレを売れば、【サミダーク】なんか調べなくても魔物図書を経営していけんだよっ!!」


 実に清々すがすがしい暴論。


「――も、元も子もないこと言うなよオッサン!!」


 依頼はどうしたんだよ。

 そもそも、本を書くための魔物調査だろうが!

 しっかりしてくれ!


 といいつつ、貴女あなたもですよ、レイナ先輩!!


「ほら!レイナ先輩もっ!」


「えぇ~!だって凄い高品質!なんで前回の依頼の時に落とさなかったの~!?」


 ええぇ~!じゃない!

 あと、それは……言わないでくれ!


 前回のレイナ先輩のサポートの時は、失敗しまくってんだから!!

 こっちは吹っ切ってんだから、蒸し返すのは禁止です!


「いいですからっ!依頼を優先しましょうよ!失敗しますよ!?」


 素材をいくら獲得できても、依頼は【サミダーク】と言う魔物の調査なのだ。

 中難易度に設定されているのだし、失敗したらレイナ先輩だってポイント貰えないだろうに。

 そして当然、失敗した依頼のサポートの点数も低くなるわけだ。


「えぇ~!全部持って行こうよ~?」


「欲をかくと全部失敗しますよっ!それでもいいんですかっ!?」


 欲は人間の特権だ。

 だけど、欲張りすぎたら痛い目にあう。

 それが人間の真理だ。

 適度な所で身を引くのが、賢い選択って奴さ。


 おいうるさいぞ、俺は別にギャンブラーじゃねぇよ!


「むぅ~!それはいや~っ!!」


 なら多少の素材はあきらめてくれ。

 涙目で見て来たって駄目だめだから!


「ちっ……仕方ねぇ、素材回収の依頼を出して、ガキに倒させるか」


「オッサンは少し本音を隠せよっ!」


 段々あらが出て来たぞこのオッサン。





 なんだかんだ文句を言い合いながらも、俺たち三人は奥地へと進む。

 そして、目的地の証拠である感触が、足裏に。


 ぬちゃ――


「……うおっ」


 靴が、ズムッと埋まりそうになった。

 俺は普段、普通の靴……地球で言うスニーカーに近いものを履いているんだが、みずうみだと聞いてミドルブーツを買っておいたんだけど、大正解だったな。


「おし、着いたようだな。ここが【サミダーク】が出る場所だぞ。ほれ、奥を見ろ」


 俺とレイナ先輩はオッサンの言葉にしたがって奥を見る。

 そこには、小さな池があった。

 川とも呼べないようなサイズの小さなもので、【ガルパー湖】に入った直後の綺麗な雰囲気ふんいきは一切ない。


「いや……沼じゃん」


「だ、だねぇ~」


 てっきり、湖畔こはんで優雅に泳ぐ半魚人を想像していたよ。

 でもよく考えれば、【ガルパー湖】入口付近の綺麗な水辺に【サミダーク】が現れたら、こんな所まで来る必要なくなるもんな。


「【サミダーク】は綺麗な水を嫌うんだ。よっと!……でもって、絶対に組み付かれるなよ?特に嬢ちゃんは」


「――なんでっすか?」


 ふとした疑問だった。

 レイナ先輩は青ざめているが、俺は知らなかったからな。


「……卵を産み付けてくるからだ。女にな」


「ぅげっ」


「ひぃぃぃぃ~!」


 身体を抱きかかえるレイナ先輩。


 うん。そりゃあ最悪だ。

 中難易度の理由って、もしかしてそれか?


「年に数回の実害もあるからな。まぁ対処法があるから、犯されても問題ないと言えば問題ないが――」


 おいオッサン……直接的なワードを言うんじゃないよ。


「大ありですっ!!一生モノのトラウマですよっ!!」


 女性からすればそうだろうな。

 ましてや、年に幾つかの被害があるらしいし。

 つーか、そういう魔物もいるんだな……この世界。

 こうして俺はまた、ネトゲとは違う異世界の怖さに対面するんだ。

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