4-91【迷わないと決めたから2】



◇迷わないと決めたから2◇


 ガタン――!メキメキ――!ボロボロッ――!


「――ひぃっ!!ミ、ミオくん!壊れたぁぁぁ~!!」


 レイナ先輩が、顔を青くして俺にしがみ付いてくる。

 確認すると、レイナ先輩の真横の板が……割れて崩壊しかけていた。


「うぉわっ!マジか……!おいオッサン!穴!!穴開いたっ!!」


「――るせっ!黙って乗ってれば落ちねぇよ!!」


 穴なんだから落ちるっつの!現在進行形で広がってるんだが!?

 御車をするグレンのオッサンは必死になりながら手綱たづなを引き、馬を制御しようとしているのだが。


「――くそっ!この安もんの駄馬が!!いう事聞けやぁ!!」


「なんで安物にしたんだよっ!」


「経費削減に決まってんだろ!」


 門の前に待機されていた馬車は、案の定ボロクソだった。

 馬車があるから安心していい……どこが安心できるんだよオッサン。

 下手すりゃ死ぬぞ……マジで。

 金には困ってねぇって言ってたよな!?


「見栄張ってたんだなオッサン!金ねぇんじゃねぇか!!」


「うるせ!大人にはいろいろあんだよっ!!黙って乗ってろっ!」


 ケチってボロい馬車に、安くしつけられていない馬を買ってきたオッサン。俺は文句を言ってやろうとしたが。


「――きゃっ!」


 一瞬パッ――と離れたレイナ先輩が、揺れで再度……俺に突撃してくる。


「んなこと言ったって、道ぎゃ――っ!いってぇ……舌噛んだぁ!」


 ガッ――!!と、レイナ先輩の頭が、言葉をはっしていた俺の顎にクリティカルだ。


「ご、ごめ~んミオくん!」


 いでぇぇぇぇ!


「だから黙ってろって言ったろ!分かったら座ってろ!!」


 俺は口を押えながらかがむ。

 マジで痛い、血ぃ出てるかも。


「ごめんねぇミオくん……平気?」


「だ、大丈夫れす……」


 笑いながら、レイナ先輩に返す。

 俺とレイナ先輩は大人しく固まって座り、穴に落ちないように気を付けていた。

 そして最後に気付いた……【無限むげん】を使えばよかったんだよな……何やってんだか。





 つ、着いた……半日も掛からなかったのはいいけど、オッサンが馬をこき使ったせいで、俺とレイナ先輩はへとへとだけど。


「よっしゃ。【サミダーク】は奥の沼地だからな、道中の魔物は倒してもらうぞ?」


「分かった」


 知った仲だと、俺は油断したのかもしれない。

 グレンのオッサンは。


「おいガキ。俺は依頼者だぞ?言葉がなっちゃいないんじゃないか?」


 それもそうだ……これは俺も悪いかな。


「……分かりました」


 苦々にがにがしい顔で、オッサンにしたがう。

 そう言われたらそうだったよな……このオッサン、これでも依頼者だったわ。


「ミオく~ん……気を付けようね~?」


「す、すいません」


 あ、やべ……そう言えば評価もされるんだった。

 気にしなくなったと思ったらこれだよ。

 でも……正直、気は楽だ。


「じゃあ行くか。ガキは前衛で戦って見せろ。嬢ちゃんは俺の護衛だ、いいな?」


 俺が前衛?依頼を受けたのはレイナ先輩だぞ?

 いや、でも……オッサンの考え――さてはこのオッサン、俺を試すつもりなんだな?


「え、えっと……」


 レイナ先輩も少し思う所があるのだろう。

 そりゃそうだ、自分が受けた依頼なんだからな。

 だけど、それは年の功……グレンのオッサンは。


「嬢ちゃんはガキの試験もすんだろ?なら、ガキに戦わせな。依頼成功の是非ぜひには関係ねぇからよ」


「そ、そういうなら……分かりましたけど」


 レイナ先輩も納得してくれた。

 依頼の成功失敗に関係無いのなら、まぁ楽な方がいいもんな。

 任せてくださいよ、俺が……【ガルパー湖】奥地まで、楽に連れて行きますから。

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