4-89【ガルパー湖へ】



◇ガルパー湖へ◇


 翌日……朝早く起きた俺は、隣のベッドのミーティアに優しく声をかける。

 展開が展開だったら、物凄く甘~い感じなんだけどな。

 残念ながら、そんな展開は待っていない。


「ミーティア……俺、行くけど……大丈夫か?」


 いつも俺より早く起きるミーティアだが、どうやら昨日も眠れなかったのか、ここ二日はお寝坊さんだった。


「――はっ!!ご、ごめんっ!」


 パッチーン!と目を開けて、起き上がる。

 そして、あせったようにパジャマを脱ぎ始め……そう、俺の目の前で。


「わぁっ!ちょっとミーティア!下着下着!!見えてる!」


 俺は慌てて手で隠すが、すまん……ちょっと見えてた。

 ……うそです、ガッツリ見ました。ごめんなさい。


「え……きゃあっ!!」


 両手で身体を隠し、赤面するミーティア。

 どうしたんだよ、らしくないミスをして。


 普段は俺に配慮はいりょをして、早くに起きて着替えているじゃないか。

 今日、俺がレイナ先輩の依頼サポートで【ガルパー湖】に行ってる間、本当に大丈夫か?


「その、大丈夫か?」


 手でおおいながら、ちらりとミーティアを見る。

 暗い顔で、自分らしくない行動にショックを受けているように、俺には見えたけど。


「――平気。ごめんね、少しだけ待ってて……」


 そう言って、ミーティアは着替えを持って脱衣所に行く。

 いきおい良く閉められた扉は、いきおい余って半開きになり、聞こえて来たのは……すすり泣くような声だった。





「お待たせ。さ、準備は良いの?」


「――あ、ああ。もう終わってるよ」


 ミーティアは大丈夫なのだろうか……今日の予定としては、俺はレイナ先輩と【ガルパー湖】へ依頼を受けに、ミーティアはイリアとの訓練の予定だ。


 想定外の事が起きない限り、無事に終われるはずなのだが。

 これはあれだ……嫌な予感しかしない。

 う~ん……このまま行ってもいいものか。


 いや……俺は迷わないって決めたんだ。

 ミーティアにはミーティアの考え、目標があるから……悩んで、それでも進んでくるはずだ。


 ここで俺が余計なことを言えば、きっとミーティアはもっと迷う。


「――ミーティア」


「え?」


「俺は、目の前の事だけを考える事にしたよ……イリアの事があって、あの人を助けてあげたい、応援したいって思ったからさ。でも、自分の事も、ミーティアの事も考えてる」


「……うん。分かるわ」


「そっか。ならいい……俺が帰ってくるまで、無理するな。なんならば休んでいてもいい……でも、もしミーティアが良いって言うなら、イリアを頼むよ」


 あの子は一度、襲われている。

 そいつは冒険者学校にいる可能性が高いし、それに。

 俺が考えた、能力をもちいた作戦を実行するまでは、何かあっては困るしな。


「うん」


「心配ありがとな。きっと自分の事でも大変なのに……いろんなことに付き合わせてさ。感謝してる」


「そんな……私は、なにも……」


「そんな事ないよ。ミーティアのおかげで、俺は冒険者学校でやっていく覚悟を持てた……君のおかげだ」


 まだ暗い部屋の入口で、俺は真剣にミーティアを見る。


「ミオ……」


 これは俺の本音だ……それが今のミーティアに届くかは分からないし、余計な事を言っている可能性だって無くはない。

 少しでも心が休まれるなら、それだけでいいんだ。


「それじゃあ、行ってくるよ」


「……ええ、いってらっしゃい」


 さぁ……俺は俺のやるべき事を、一生懸命に進んで行くだけだ。

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