4-81【クラウの観察眼】



◇クラウの観察眼かんさつがん


 厳しい状況ね……あの日、【幻夢の腕輪】を着けたイリアを見られていた時点で、隣にいた私も見られていた事は確実だわ。

 メ、メイド服姿の私を。


 しかも、私が変身するにあたって話し方を真似まねた、「僕」と言っていた頃のミオの口調……それまでバレていた。

 お姉ちゃんなんだし、考えたら当たり前なんだけど。


「ミ、ミオくんは、昔こんな話し方だったんですか?」


「ええ、まだ可愛い……小さな時ね、今はあんなに背も伸びて、かっこよくなったけど」


「へ、へぇ」


 知ってる。本当に幼い頃は知らないけど、「僕」と言っていた時の事は鮮明せんめいに覚えている。

 だって……私の運命の出会いだもの。


「ミオは自慢の弟よ。幼馴染の子にも、どこぞのお嬢様にもやりたくない」


「……」


 痛い痛い!言葉が刺さるよクラウ!

 やっぱり、気付いてて言ってるわよね!?


「……」


「……」


 クラウの視線は、私を絶対に逸らさない。

 言ってもいいものだろうか……トレイダ・スタイニーがミーティアだと。

 クラウが気付いているとしても、言わないというジルリーネとの約束もある。


 冒険者学校入学の時点で、クラウが首席になると言うのはジルリーネも確実と言っていた。

 その結果、こうして生徒名簿まで持ち出せるのだから。

 今後、もっともっと深くさぐってくる可能性だってある。


 だったら、ここで言ってしまえばいい。

 ジルリーネには何とでもなる。

 いつでも会えるのだし、理解もしてくれるだろう……多分。


「……はぁ……降参ですね。参りました……少し待ってて、クラウ・・・


「ええ」


 私はクラウに頭を下げて、席を立つ。

 だますつもりは初めからなかった。

 私には私の課題があって、こうしてトレイダ・スタイニーとして学校に通うことにした……というか、ジルリーネにさせられていたんだから。


 誰もいない事を確認して、お手洗いに入り。


「【幻夢の腕輪】――解除」


 光は一瞬で私を女性の身体に戻す。

 本当に不思議ふしぎだ。

 魔力の屈折によって、周りには男に見えている・・・・・と言うんだから。


 実際、私の姿は女性のままなのだ。

 だが、自分以外の人には別の姿に見えるという効果があるだけで。

 まさしく……幻夢を見せるのだ。


「クラウの観察は凄いわね……いつバレたのかしら」


 彼女は人をよく見ている。

 それは勉強の為なのか、それとも単に人間観察が趣味なのか、どちらかは分からないけれど。

 私はお手洗いを出て、席に戻る。


「――お待たせ。クラウ」


「速いわね。魔法?」


 椅子に座り直す。

 クラウ……怒ってはいないみたいだけど。


「これよ。【幻夢の腕輪】……ジルリーネに昔貰った、伝説級のアイテムなの」


 カチャリ――と、腕輪を外してテーブルに置く。

 クラウはまじまじと観察して。


「やっぱりね。こんな珍しいもの、そこら辺で着けてるわけないもの」


「いつから気付いてたの?」


「う~ん。変だな――って思ったのは、トレイダ・スタイニーと初めて会った日ね。やけに昔のミオみたいな口調だったし、ずっとミオから離れようとしなかったでしょ?」


「そ、そうだった?」


 どうやら、私の行動自体が不自然だったらしい。

 友達ならそれくらいの距離感……普通だと思ってたわ。

 え……友達いないのかって?

 い、いないですけど……何か問題でも?


 こうして、私は入学して一月ひとつきたず……ミオとクラウの姉弟に正体を知られたのでした。

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