4-79【それぞれの一日1】



◇それぞれの一日1◇


 ~ミオ~


 先日の事……俺が今日もグレンのオッサンのところに行こうとして、情報を集めていた時の事だ。


「あれ、レイナ先輩?」


「お?お~ミオくんじゃん。元気~?」


 トコトコと駆け寄って来て、俺の背中をバッシバシ叩く。

 痛いっす、先輩。


「は、い、おか、げさ、まで……ははっ、先輩は……なにを?」


 叩かれるリズムで途切れる俺の言葉を聞き、笑う赤毛の先輩。

 そんなレイナ先輩がいたのは、校内の掲示板前だ。

 【ギルド】からの依頼などが張り出されているのだが、それを先輩はまじまじと見ていたんだ。


「あ~、あはは……ちょっと金欠でさ~。この前も依頼失敗しちゃってね~」


「そうなんですか……やっぱり、二年も大変なんですね」


 俺たち一年が二年の先輩に評価されるように、二年生は三年生に評価される。

 一年とは違い、依頼方式ではなく個人でのポイント制だ。

 俺たちに合わせてやってくれた初依頼とは違って、中難易度以上を受けないと、三年からの評価は低くなるらしい。

 まぁ、すでに一年の付き合いだからな…二年三年は。


「そ~だよぉ。三年の先輩は数も少ないし……見てもらうのも争奪戦なんだ~」


「マジですか、そりゃあ大変だ」


 「でも……」と、レイナ先輩は掲示板の紙を一枚取って、ジッと見る。

 俺もその依頼書を見て……ぎょっとした。

 その紙の依頼者の名前は……グレン・バルファートだったからだ。


 あのオッサン……出さないとか言ってて、速攻で出してるじゃないか。

 天邪鬼あまのじゃくめ。


「……あの、レイナ先輩。俺でよければ手伝いますよ?その依頼者、知り合いなんで」


「――え!本当にっ!?あ~でも……中難易度だよ~?」


「――大丈夫です。もう、周りは気にしませんから。絶対に先輩の役に立ちますよ」


 俺はニッと笑う。

 そうだな……目的はそこじゃないから、気も楽だと言うものだ。


「――!……そっか。なら、お願いしようかな」


 よし、決まりだ。

 俺はレイナ先輩を手伝う……依頼はグレンのオッサンからだ。

 内容は……魔物の情報を調べてくること。

 イリアの目的である【アルキレシィ】……その為には、まずオッサンに俺の実力を知ってもらう所からだっ!





 ~ミーティア~


 【ステラダ】にある、とある喫茶店。

 そこに、二人の男女が席を取り、向かい合って座っていた。

 少女は暗めの金髪をポニーテールにし、年齢の割に低い身長に似合わないコーヒーを飲んでいた。

 そしてもう一人……少年。

 私……トレイダ・スタイニーこと、ミーティアだ。


 今、私はクラウ・スクルーズと一緒にいる。

 トレイダとして、彼女に呼び出されて。


「そう言えば、はじめましての時以来ね。トレイダ・スタイニーくん」


 コーヒーを飲みながら、クラウが言う。


「は、はい……そうですね」


 クラウが私に向けてくる、一枚の紙を。

 その紙の内容は、一年生・全生徒の名簿だった。


(な、なんでクラウが……あ。そうか……首席だから、自由に名簿を見れるんだわ)


 その名簿の中には、勿論もちろん私……ミーティア・クロスヴァーデンの名がある。


「この前、この生徒に会ったのよ、女子寮でね」


「……」


 ミーティアの名をトントン――と指で叩いて、私を見る。

 そう……女子寮で、私がクラウに会った日の事だろう。


「知り合いが体調不良で、その報告をしに来たらしいけれど……普段は自宅から通っているのかしらね、この子。寮生活ではないらしいから」


「さ、さぁ……どうなのでしょうね?」


 女子寮に入っていない事を不審に思っているのか、それとも。


「――ミオの同室で相棒。トレイダ・スタイニーくん……私、このミーティアって子に、学校で会ったこと無いのよね」


「……そうなんですか?」


 私は紅茶を飲みながら、カタカタとなりそうになるカップをなんとか抑える。

 絶対に怪しまれてる……ミオに続いて、こうも簡単にバレる訳には!


 確かに、ミーティアとしては通っていない……まだ。

 すっとミオと一緒にいるのだし。


「ねぇ?なんでだと思う?」


「さ、さぁ。人それぞれですし……自宅からそのまま依頼を受けているのではありませんか?」


 初めからそういう事にはしてある。

 別段、隠す事ではないけれど、クラウにも秘密にしておく……それが、ジルリーネが出した条件だったのだ。


 ミオには自分のミスですぐにバレてしまったけれど。

 これ以上は、トレイダとしていられなくなる。


「そうかしらね。私も……最初はそう思ってたんだけどね。トレイダ・スタイニーくん」


 その不敵な目は、ちらりと私の腕輪を見ていた。

 【幻夢の腕輪】……変身能力を持つ、そのアイテムを。

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