4-78【連日通い詰め】



◇連日通い詰め◇


 俺の目の前で……実に嫌そうにするのは、グレン・バルファート。

 魔物図書の主であり、A級冒険者らしき中年のオッサンだ。


「――よ、オッサン」


 片手をあげて、気軽に挨拶あいさつをする俺。


「あ?なぁんだよガキ……また来たのか?こりねぇなぁ」


 俺はオッサンの眼前に飲み物を置く。

 近くの露店ろてんで買った冷たいものだ。

 魔法の道具で作られた容器はまるでプラスチック。

 蓋までついていて、見た目は完全にこの世界には不釣り合いだ。

 俺の予想では、多分……転生者が発明したんだろうな、と思うんだ。


「要らないのか?今日も暑いし、飲むだろ?」


「……いや飲むけどよぉ。お前暇なのか?」


 オッサンは飲み物を手に取り、「ちべてぇ」と喜ぶ。

 ほらな、結局飲むんだろ?


 あとひまじゃねぇよ。

 目的があるから……あんたの所に来てんだ。


「で、考えてくれたか?」


「おいガキ。お前もしつこいねぇ……嫌われるぞ?しつこい男はよぉ?」


「へっ、別にオッサンからなら嫌われてもいいよ」


 口をへの字にして、オッサンは心底嫌そうに笑う。


「んはは……凄まじいね、若者の根気ってのは。だけど、依頼は出さねぇって。何度も言わせんな」


「……」


 そう……俺は、この人に依頼を出させようとしているんだ。

 あの日から毎日……ここ魔物図書に通い詰めて、この嫌がるオッサンに頼み込んでいるんだ。

 その内に、いつの間にかこんな気楽にしゃべるようになってた。


「……オッサンなら、【アルキレシィ】討伐の依頼が出せるんだろ?」


「――出せるが出さねえって言ってんだろ!」


「そこをなんとか!依頼を出すだけでいいんだって!あとはこっちでやるから!!」


「んな訳に行くか!お前……分かって言ってんだろ!!」


 その通りだ……無理難題を頼んでいる。

 ミーティアに聞いたのだが、【ギルド】を通して依頼を出すのには金がかかるらしい。

 どんな小さな依頼でも、依頼掲載料金が発生するのだとさ。

 ましてや高難易度となると、その依頼を出すだけでも馬鹿にならない額なんだって。

 つまり……亜獣あじゅう【アルキレシィ】の討伐依頼は、学生には出せない依頼なんだ。


「だからさ、オッサンの手伝いをするって言ってんじゃん!」


「いらねぇって言ってんじゃん!?」


 この繰り返しだ。


「お前、昨日・・あたりから変だぞ!なんだよ手伝いって!」


「手伝いは手伝いだよ、オッサンの手伝いさ……だから依頼を」


「そういう事かよ……恩を売ったって駄目だめだからなっ!」


 このオッサンは、普段から依頼を出している事があるらしい。

 【ギルド】で見かけたんだよ、このオッサンが出してた依頼をさ。


 その内容は、魔物の情報を提供ていきょうすると言うものが多かった。

 言わば、生態調査だな。

 多分、その目的は。


「それ。本を出すんだろ?」


 俺は、カウンター席に座るオッサンの手元を指差す。

 何枚もの紙、インク、魔物の情報が書かれた紙があった。


「――るせっ。ガキには関係ない」


 A級冒険者であるオッサンが、何故なぜ自分で調べに行かないのか。

 詳しくは知らんが、何か理由があるのは確かだ。

 でも、それは俺には関係ない事だ。


「魔物の情報を知りたいんなら、依頼を出せば学生が受けるだろ?」


「三年のB級間近な実力者の奴らならともかく、二年の依頼には出せねぇよ。かと言って、一般の冒険者に依頼を出す程、金はねぇ!」


 ライセンスを持っていない冒険者も多々いる。

 いわゆる、フリーランスだな。

 だけど、そのフリーランス冒険者はライセンスがない以上、【ギルド】からの恩恵を受けられない。


「だから手伝うって。依頼を受けてくれそうな先輩にも、心当たりがあるんだよ」


 数日で、俺とミーティアは色々行動をしていたんだ。

 まずは協力者……依頼を受けてくれて、サポートをさせてくれる先輩だ。

 これは、レイナ先輩に頼もうと思っている。

 彼女にも彼女で、やりたい事があるらしい……それを知ったからな……きっと受けてくれるさ。

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