4-76【血筋の代償2】



◇血筋の代償2◇


 ミオが二階に行って調べている最中、私とイリアは大量の本に囲まれていた。

 イリアは指で目頭を押さえている。

 やっぱり、疲れるわよね……私も目が痛い。


「大丈夫?」


「ええ、平気」


 そうは見えないけれど、どうしても変身をしているからか、違和感を感じるわね。

 イリアは今、男性の見た目をしている。

 【幻夢の腕輪】は肉体だけではなく、まとっている衣服まで変質させる効果があるから、服も貴族の男性風だ。

 ちなみに、イリアのメイド服は私が着ているので、変身が解ければ私の服を着ている。

 

 しかし実際は、変身しているように見えるのは周りだけであり、自分では変わっていない……と言うのが絡繰からくりなのよ。

 つまり……私はあの時、トレイダとして男子のシャワールームで汚れを落としていたけど、実際は女の子のままシャワーを浴びていたのだった。

 ミオの……直ぐそばで。


「……少し休みましょう。飲み物を買ってくるから」


「はい……そうですね」


 休憩を入れた方がいいわね、根の詰めすぎはよくないし。

 私は隣の席を立って、この図書館にもうけられた小さな売店に向かう。

 しかし、少し歩いた私のもとに……一人の男性が足を向けているのを確認して、止まる。


 誰?背丈は普通……ミオよりも少し低いくらいだ。

 でも、魔力が極端きょくたんに抑えられてる……だから、強い――というのだけは分かる。


「やぁやぁお嬢さん。俺はこの図書の管理人……グレン・バルファートだ、ご利用ありがとう」


 礼をする中年の男性、グレンさんと言うらしい。


「いえ……」

(視線が……イリアを見ている?)


「……じー」


「あの、何か?」


 イリアを見る視線は、やはり怪しい。

 だけど……どことなく温かみを感じるのは……気のせい?


「……なぁ青いお嬢ちゃん。あの嬢ちゃん・・・・に伝えておいてくれよ。「無理をするな」ってな」


「――え!?」


 この人、【幻夢の腕輪】の変身に気付いて……!!


「そんじゃあ、あのクソ生意気なガキにもよろしく言ってくれや」


「え?」


 男性が、自分の背後を親指で差す。

 そこには、あせったようなミオがこちらに向かっていた。


「――おい!オッサン!!」


「なんだガキ。図書館ではお静かになっ!」


 ミオは来るなり、グレンさんをオッサン呼ばわりで嚙みつく。

 だけど、グレンさんは相手にせず余裕を見せる。

 グレンさんも大声だけど……


 並ぶとよく分かるわね。

 ミオの身長が、十四歳の平均に比べて高いことが。


「ちょっと待ってくれよ、さっきの話・・・・・がまだ――」


「オレの話は終わったんだよ。んじゃ~な」


「――あ、おいっ!」


 手をひらひらさせて、グレンさんはこの図書館の管理人室に向かっていく。


「……くそ、もう少しでっ!」


「ミオ……あの人は?」


 ミオ、ちょっと怒ってる。


「A級の冒険者だってさ。【アルキレシィ】の事も、四年前に起きた事件の事も知ってるようだった……だから、少し話してみたんだけど」


 なるほど……それでさっきの話ね。


「でもその様子だと……」


「ああ。上手くかわされた」


 悔しそうに、歯嚙はがむ。


「そう……」


 でも、チャンスはまだあるわ。

 あのグレンさんって人が言った言葉は、イリアを心配するものだった。

 行動さえしていれば、きっと……活路かつろは見えてくるはずなんだから。

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