4-75【血筋の代償1】



◇血筋の代償だいしょう1◇


 俺は、このグレンってオッサンと交渉する……そう決めた。

 勝手な考えかも知れないが、それが一番早い道のりだと思ったんだ。

 かんだよ。ただのかんだ。

 でも……それが正しいと思って、必死に進むさ。


 血というワードに反応したなら、話は早い。

 イリアには後で、誠心誠意せいしんせいいを込めて謝るさ。


「――俺の仲間ですよ、ハーフエルフの」


「……ハーフエルフ、だから“血”か……――まさか!……亜獣あじゅうってのは、【アルキレシィ】の事かっ!?」


 身を乗り出すオッサン。

 ビンゴだ、やっぱりこのオッサンは知っている。


「そうですよ。その子は、その【アルキレシィ】って獅子の魔物を……両親のかたきを倒そうとしているんですよ、冒険者学校に通ってまで」


 グレンのオッサンは再度、転落防止の手摺てすりに身体を預けて、下を見た……そして、言う。


「お前がさっきからチラチラ見てる二人組。それがそうか?」


「……気付いてたのかよ」


 まさか、初めから気付いて……だから俺に声をかけて来たのか?

 グレンのオッサンは下を見ながら。


「四年前に起きた貴族への魔物襲撃事件……護衛をしていた奴を知ってる。死んじまったけどな」


「……その魔物、【アルキレシィ】は?」


「――まだ生きてるよ。【ハバン洞穴】の中にいるはずだ……生存者は女の子だったはずだな、あの子……ではないな」


 ここまでバレてれば、下手に隠したら駄目だめだな。


「男の方だよ。魔法で変装してるんだ……家の奴らを誤魔化ごまかすために」


 このオッサンはイリアを……いや、クレザース家の事を知ってるんだ。

 だから、きっと言っても大丈夫だ。


「マジかよ、すげぇ魔法だな。どう見ても男だ……あ~でも、髪色が一緒か」


「知ってるんだな。キルネイリアの事を」


 もう直接名前を出してやる。

 そんな俺の言葉に、オッサンは「やっぱりそうか」とガックリとし。


「あ~あ。お前に話しかけるんじゃなかったわ……これはオレの失敗だな」


 天を仰ぎながら目をつぶるオッサン。

 そんな後悔は後にしてくれ、まだ話は終わってないんだからな。


「教えてくれ、【アルキレシィ】は……学生に倒せるか?」


 上を見たまま、オッサンは笑う。


「んはははっ!バカ言え、A級でもキツイっつーの。【アルキレシィ】は、もともと【ガルノレオ】って言う獅子の魔物だ……あの事件で、エルフの女性をって――進化したんだよ」


 エルフの女性、イリアの母親の事か。


「【アルキレシィ】って名前になったのはその後だな……もう必死だったよ、あいつを【ハバン洞穴】におびき寄せるだけで、数人が死んだ……数十人は大怪我だったし、今でも引きずってるやつは大勢いる……冒険者を辞めた奴もな」


 それだけの犠牲が出たのか。それだけの冒険者が関わっていて、倒すどころかおびき寄せて、【ハバン洞穴】に閉じ込める事しか出来なかった。

 そこまでの存在なのか……亜獣【アルキレシィ】は。


 そして俺は、更に追及をしていくように。


「あの事件に、貴族が関わってるってうわさ、知ってるか?」


 グレンのオッサンは舌打ちをして、俺をにらむ。

 その眼光は、ケラケラと笑っていた中年男性とは思えないほどの迫力だった。


「それ以上は止めておけ……死ぬぞ?」


「あ、おいっ!ちょっと」


 グレンのオッサンはそう言うと、不機嫌そうに一階に下りて行った。

 目で追うと、向かう先は……二人の所。


「やっべ――!!」


 急いで追わねぇとっ!なにを言われるか分かったもんじゃないっ!

 俺も急いで本を戻して、オッサンを追うのだった。

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