4-74【正論】



◇正論◇


「グレンさん……でしたっけ。あなたなら、【ハバン洞穴】に行けますか?」


「……」


 心底嫌そうな顔で俺を見るオッサン。

 なりふり構わない俺の言動に、引き気味だ。


 俺だって分かってるよ……こんな初めて会ったような人間に、普通そんなことは言わないってさ。

 俺だったら逃げてるかもな……だけど、自覚もあるがなりふり構ってはいられないんだよ。


「グレンさん……依頼を、出してもらえませんか?」


「はぁ?……何の為にだよ?悪いが金には困ってねぇよ……依頼を出すつもりもねぇ。お前何様だよ……笑えるけどな」


 ごもっともだ、正論だよ。

 俺だって分かってるし、普段なら考えてから物を言うさ。


「時間がないんです。俺じゃなく……その魔物を探している人が」


「――……あきれるな。そいつが誰かは知らないが、探すなら自分で探させろ……」


 それが出来ないから、俺が言ってるんだよ。


 グレンのオッサンは、吹き抜けになっている手摺てすりに身体を預けて、いやいやそうに言う。


「第一なぁ、学生の分際で亜獣あじゅう討伐?しかもお前は一年だ……その知り合いも、どうせ一年なんだろ?なら黙って、二年まで待てばいい話だ。その亜獣あじゅうが何かは知らねぇが、運が良ければ出会えるだろ」


「――時間も実績も、手に入れられないから急いでるんですよっ、彼女は!」


 ハーフエルフであるイリアが、自力で冒険者学校を卒業するのはそうとう難易度が高い。それこそ高難易度の依頼と同じように。

 だけど、別にイリアの目的は冒険者じゃない……ライセンス取得を目指しているのだって、【アルキレシィ】を倒すための口実だ。


「――無理なものは無理だ、あきらめさせろ。何が目的かは知らんし興味もないが、実力も無いガキが簡単に亜獣あじゅうと戦えると思うなよ?」


 その言葉に、俺は……


「……そんな事、分かってる!あの子が子供なのも当然だ、でも親を殺されてるんだよっ!その魔物によって、人生がくるってしまったんだっ!そんなの、自分で晴らさないと前に進めないだろっ!?」


「――それが甘いって言ってるんだ。なんでお前がそいつの為にこんな事をしてんだ?お前にそんなひまがあんのか?その魔物……仮に亜獣あじゅうだとして、そのせいで誰かが死んだらどうする。そいつが死んだらどうする?責任取れんのか?」


 正論だよ、正論でしかない。

 俺の言ってることは、馬鹿でおろかで……子供だ。


「でもっ……頑張ってるんだっ!自分の血に負けないで、必死に!」


 頑張ってる人を助けたいと思うのは、悪い事か?

 それを見て俺も頑張ろうって……思えるんだよっ!


「……?」


 初めて、このオッサンの顔色が変わった。


「おいガキ。今、血と言ったな?どういう事だ」


「どういうって……それは」


 イリアの個人情報だ……言って良いものか?

 今更感もあるけど……でもこれは、交渉できるのでは?

 悪い、イリア……でも、このオッサンが【アルキレシィ】について何かを知っているのなら、必ず引き出してやる!

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