4-73【魔物図書の主2】



◇魔物図書の主2◇


 自分をグレンと名乗ったオッサンは、俺の喉元に這わせていた短剣を仕舞い。

 手をパンパンとはたいて言う。


「けっ。物好きなガキだねぇ。冒険者なら、現地で探せよ」


 ちょっと待て、じゃあなんであんたはこの本書いたんだよっ。


「そうはいかないから、こうしてあなたの本を読んでいたんですよっ」


「へぇ、ふ~ん。ご苦労なこったね……で、オレの本はどうだい?」


 つ、つかめねぇこのオッサン。


「その亜獣あじゅうって言うのは、この【ステラダ】付近にもいますか?」


「……いるんじゃねぇの?そいつ次第だろ」


 元も子もない事を言うなよっ。

 なんなんだこのオッサン、マジで!


「作者なんですよね、この本の」


 段々怪しくなってきたぞ。

 表紙を見せつける様に、グレンというオッサンの顔面に押し付ける。


「――んはははっ。ちけぇよ」


 笑いながら、俺の手をはたく。

 そして。


「【ステラダ】の近郊きんこうに……【ハバン洞穴】と言う鉱山跡がある。そこは昔、地下から現れた魔物によって全滅させられた場所だ。まぁ、大勢死んだよ……もし、そこの魔物が進化していれば……この近くにもいることになるだろうな。数年前には魔物襲撃の事件もあったし、現場はその近くだ」


 教えてはくれるんだな。

 だけど……魔物襲撃事件。

 それって、もしかしてイリアの両親が襲われた事件か?


「貴族の夫婦が襲われた事件ですか?」


 グレンのオッサンは眉をひそめながらも答える。


「ん?あ~、そうだったかもな。その鉱山の持ち主、確かその息子だったか」


 息子……つまりはイリアの父さんか。

 やっぱりだ。じゃあ、その鉱山跡に行けば……【アルキレシィ】がいる可能性も。


 俺の考えを読んだのか、グレンのオッサンは。


「――だが、現場は立ち入り禁止だ。現在もな」


 ニヤリと笑う。


「……方法はないんですか?」


「無くはねぇが、亜獣あじゅうクラスの魔物の討伐依頼は中々出ねぇよ。そもそも数が少ねえからな。それに、ライセンス持ちの冒険者じゃねぇと……まぁ無理だろうよ、戦力的にな」


 ライセンスか……それじゃあ、イリアには無理になる。

 無論むろん、今の俺でもミーティアでも、クラウ姉さんでもだ。


「“準”でも?」


 可能性は、何かないか?


「――駄目だめだな。少なくともB級が必要だ……ま、学生には無理だな」


 B級ライセンス……つまり、冒険者学校を卒業しなければならないのだ。

 冒険者ライセンスは全部で三種類。


 名のある上級冒険者のA級ライセンス。

 冒険者学校卒業で取得できるB級ライセンス。

 二年で取得できるC級ライセンスがある。


 一年生の目標は二年への進級だ。

 つまり、C級ライセンスを取得するのが目的だな。

 そして最終的に、卒業してB級ライセンスを取得できるんだ。


 それまでは、二年も三年も等しくC級だ。

 そしてそのライセンスが無ければ、個人で依頼を受けるしかない。

 だが、それは簡単ではない。


「……あなたは?」


「あ?俺はA級だが……一応」


 A級になる冒険者は、学校の卒業生は勿論もちろんだが……様々な条件が重なるんだったな。【ギルド】から直接依頼されるような強い冒険者や、個人で高難易度の依頼をクリアするような実力が認められて、ようやく取得できるのが……A級だ。


「あなたなら、その鉱山跡……【ハバン洞穴】に行けますか?」


「はぁ?」


 限りあるチャンス……それが、そちらから来てくれたんだ。

 この人が依頼を出してくれれば、もしかしたら。

 そんな思いを、俺は考え始めていた。

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