4-72【魔物図書の主1】



◇魔物図書の主1◇


 下の階に気を取られて、戻した本の隣を落としてしまう。

 ドサリ――と、まぁまぁな音を立てて落下する。


「あ、やべ……」


 直ぐに拾い上げて、なんの気無しにタイトルを見てみる。

 お、これはまだ目を通してなかったな。


「なになに……【亜獣の歴史】?」


 亜獣あじゅう?なんだ……?魔獣ではなくて?

 気になるワードに、俺はページをめくる。


亜獣あじゅう……それは、魔物の進化系の事だ……」


 進化?なにそれ……ポ〇モンか?

 そんな前世の危ない知識を片隅に、俺は読み進める。


「長い時間を生きた魔物は、人類と同じで強くなる……特に、魔族が使役しえきする魔物はその恩恵おんけいを多く得られる事が知られている」


 魔族か……俺が知っている唯一の魔族。

 クラウ姉さんの相棒であるラクサーヌさんなら、何か知ってるかな?


 更に読む。


恩恵おんけい……経験値みたいなもんか?それが蓄積ちくせきして、魔物が進化するって事か」


 じゃあ、普段から存在する魔物にはそれはないのか?

 冒険者だって一般人だって、魔物による死者はいる。

 魔物同士で戦ったり、人間を襲ったり……そうして魔物が勝利して、その時に進化するって事か?


 そして行き付くのは……【アルキレシィ】がその部類の存在かもしれないという事だ。


「……もし、【アルキレシィ】が進化した魔物だったら?」


 希少なのもうなずけるよ。

 そして、そんな強くなった魔物なら、四年った今でも。


「――まだ生きてる可能性は……ある、か」


 イリアが探す魔物、仇討かたきうちを果たそうとする魔物。

 生きている可能性は高い。だが……それをイリアが倒せるか?

 ハーフエルフであり、冒険者としての芽が望まれない……そんな少女が。


「――お前。亜獣それ興味きょうみがあんのか?」


 突然……背後から。


「――!!」


 背後に魔力の気配!?。

 今まで無かったぞ!!こんな近くまで接近するのに、なんで気付かないんだ!


「だっ――」


 誰だ……そういう前に、その存在は。


「遅いんだな~」


 チャキッ――


「――うっ!」


 振り返った俺の喉元に、鋭利えいりな短剣が突き付けられた。


 なんだ――このオッサン。

 魔力を感じたのも声をかけられる直前だ。

 気付いて振り向いた瞬間には、肉薄されて短剣を突き付けられた。


「――その本を書いたの、オレなんだよなぁ」


 作者?この亜獣あじゅうの本の?


「……そんな人が、なんでナイフを?」


「ははっ……なんとなくだなぁ。お前がやれそうに見えたんだよ」


 なんだよそれ、そんなことでいきなり襲われそうになったのかよ俺は。


「――あなたは?どちら様ですか?」


 冷静に、刺激しない様に会話をする。


「ん?あれ……怖くないのか?学生だろ?お前」


 怖えよ!!それでなくても刃物が怖えんだから!

 こっち向けんなマジで!!心臓止まりそうだわっ!


 だが、逆に冷静にもなれるってもんだ。

 このオッサンは――強い。きっと冒険者だ。


「冒険者学校一年、ミオ・スクルーズです……調べ物で来ました」


「ほ~ん。それで亜獣あじゅうねぇ……復讐か?」


 このオッサン……あなどれねぇ。


「そんなところです。で、あなたの名前は?俺は名乗りましたよ?」


「おお、それもそうだな!……オレはグレンだ、グレン・バルファート。魔物図書ここの管理人で……冒険者だぜ?」


 やっぱりか……するど観察眼かんさつがんに、素早い動き。

 底知れない魔力……きっと、ライセンス持ちの――上級者だ。

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