4-67【私の夢4】



◇私の夢4◇


 イリアの保護は決まったが、まだ話は続けなければ。

 気になる事はまだまだあるんだよ。


「――なぁイリア。イリアは、どうして冒険者を目指してるんだ?」


 無理に答えなくてもいいけど、気にはなる。

 どんな目的があるにせよ、自分でも自覚はあるはずだからだ……その、ハーフだって事に。


「……」


「あ、いや……無理に答えなくてもいいんだ、ごめん」


 いきなり過ぎたかな……それぞれ誰にだって想いはあるのに、いきなり聞くのは失礼だった。反省しとけ俺。


「いえ……構いませんよ、ミオ」


「そ、そうか。よかった」


 そう言って微笑びしょうし、イリアは語る。

 自分の出自と、目的を。


「もうお気付きかもしれませんが、私は……ハーフエルフです。父の名は、クレザース家の長男……レダナ。坊ちゃんの、年の離れた兄君にあたります」


 ロッド先輩は確か二十二歳だから……そういう言い方をするってことは、相当離れてるよな?

 貴族には多いのかもしれないな、そういうのって。


「でも、それって……自分の叔父にメイドとして仕えてたって事、だよな?」


「はい……母は、屋敷でメイドとして働いていたエルフでしたから」


「……そういうことね」


 ミーティアが理解したようにうなずく。

 彼女は貴族ではないが、大商人の娘という事で……多少は分かるのだろう。

 貴族の屋敷で働くメイドか……そして、その屋敷の嫡男ちゃくなんの子供を宿したんだな。

 普通に考えれば、イリアはお嬢様だ……だけど――イリアは。


「ハーフである私は、クレザース家に受け入れられませんでした……母も、理解をして私を産んだそうです。そして父も……私を愛してくれていました」


 くれていた……つまり、今は。


「現在のクレザース家は後継ぎがロッド先輩よ。お兄さんである……イリアのお父上ではなく……」


 ミーティアが言う。

 俺にない知識を持ってくれているから、やっぱ頼りになる。

 だけど、その言葉通りなら……イリアの両親は。


「その通りです……嫡男ちゃくなんだった父は、亡くなりました。母も……」


「――もしかして、四年前の」


 ハッ――とするミーティア。

 何か知っているようだけど、イリアは暗い。

 これは……聞いてもいい事なのかな?


「……はい。魔物に襲われたのです、父と母が乗った馬車が」


 魔物に襲われた?貴族なんだし、護衛だっていただろうに。

 ミーティアは納得する。そして続けて。


「やっぱり、そうだったのね。私も、詳しくは知らないんだけれど……【ステラダ】に住む貴族間では有名だったらしいわ……」


 貴族である人物が乗った馬車が魔物に襲われた……普通に考えれば、ヤバイ事件だと思うけど……もしかして。


「何か、不手際でもあったのか?」


 イリアではなく、ミーティアが答える。


「表向きはただの事故よ……【ステラダ】の警備兵もいたし、馬車には護衛も付いていたわ。でも」


「でも?」


 続きを、イリアが言う。


「――魔物を、クレザース家が用意したといううわさがあります」


「なっ!?」


 それって……マジか。

 俺でも予測できる……それが本当だとしたら、仕組んだのは当主。

 四年前なら、ロッド先輩は十八歳だ……やれない事も無いだろうけど、多分違う。

 当主……つまり――


「そのうわさが本当なら、現当主のダイノ・クレザースが仕組んだ……可能性が高いと思うわ。その……大きな声では言えないけれど」


 ミーティアが言う、慎重に……言葉を選びながら。


「そうなる、よな」


 イリアの父である当時の嫡男ちゃくなんが、何者かによって仕組まれ、魔物に襲われたのなら、得をするのは誰だ?弟のロッド先輩か?

 それとも、他の誰か?


「私は、その時に馬車に乗っていたんです。一緒にいた、その時の魔物を……見ているんです――この目でっ」


 襲って来た魔物を見ている。つまりは生き証人だ。

 そして、その証人は……自分の不遇にあらがいながらでも冒険者になろうとしている。


 ああ……きっと、イリアが冒険者になろうとする目的は――仇討かたきうちなんだ。

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