4-68【私の夢5】



◇私の夢5◇


 今から四年前に起きた、とある貴族一家が乗車する馬車への魔物襲撃事件。

 その唯一の生き残りであるキルネイリア・ヴィタールは、その事件の当事者である。

 当時は十三歳……ハーフエルフである彼女は、生家であるクレザース家には受け入れては貰えなかった。だが……母親にも父親にも、愛だけは貰っていたと言う。


 不自由はなかった。

 認めてもらえなくとも、父も母もが愛を持って接してくれた。

 それだけで、幸せだったのだから。


 しかし、その事件をきっかけにして……状況が一変したのだ。

 魔物に襲われ、両親を亡くした……しかしクレザース家に、自分の居場所は無くなっていたのだ。

 両親も無く、生きる術すら無かったキルネイリアは、何も出来ない子供だった。


 温情なのかなんなのか、クレザース家はメイドとしてなら置いてやる……そう言った。

 だから働き始めた……正確には、メイドとして買われた。が正しいだろうが。

 ハーフはみ嫌われている。

 相反してたがいの長所を打ち消すハーフは、どの種族からも厄介者やっかいものと呼ばれているのだ。


 両親を魔物に殺され、冒険者を目指すキルネイリア。

 彼女は……自分をさげすまない少年と少女に出会った……これは良縁か、それとも。





 イリアの話を、一通り聞いた。

 親御さんを亡くし、居場所すら奪われて……それでもその貴族の家でメイドをするイリアは、きっと……両親を殺した魔物を探しているんだろう。

 だから冒険者を目指すんだ――かたきを討つ為に。


 イリアは続ける。


「――半端な私ハーフエルフに、冒険者のライセンスが取得できるとは思えません……でも、せめて誰かの依頼で、あの魔物――【アルキレシィ】を見つける事だけ、それだけが出来れば」


 【アルキレシィ】……それが、かたきの魔物の名前か?


「どんな魔物か、聞いてもいいか?」


「はい。それは、大きな角を持つ黒い獅子です。大きく、猛々たけだけしい……悪魔のような魔物です、私は……その魔物を倒すために、冒険者学校に来たのです」


 仇討かたきうち。目的。夢。

 言い方は人それぞれだけど……


「それが、イリアのやりたい事なんだな」


「はい。私の……夢です」


「そっか」


 俺は考える。獅子……つまりはライオンか。

 黒いライオン、それに大きな角の身体。

 キメラのようなものだろうか……もう少し情報が欲しいな。


「普通の魔物とは違うのか?」


 四年も前だし、下手をすれば倒されている可能性だってあるだろ?


「――【アルキレシィ】は、とても珍しい魔物です。出現すれば、緊急依頼にもあげられるような、そのレベルの存在……らしいです」


「らしい?」


「すみません……私も、かじった程度しか」


 四年前で、イリアは馬車の中で生き残っていた……確実には見ていないって事か。

 それは仕方がないな……生きていただけでも良かったんだから。


 緊急依頼……つまり希少種レアって事だよな?

 そんなレベルの魔物が、偶然馬車を襲うとは考えにくい。

 ああ……だから、裏がいるかもとうわさが立つんだろう。


「魔物か……」


「ミオ?」


 俺が思い出すのは、村を襲って来た魔物の大群たいぐんだ。

 そしてその時には、魔物を操っている人間がいる……という話だった。

 結果的には、その人物を捕まえることは出来なかったが……可能性はあると思う。


「なぁ、その【アルキレシィ】って魔物をさ、誰かが使役しえきしていたって可能性はないか?」


「――あっ!そうか……使役しえきっ!」


 ミーティアも気付いたようだ。

 村に来たあの魔物たちも、誰かが使役しえきしていたんだ。

 この世界の使役しえき方法が、どの程度の魔物にまで使用できるのか分からないが、もし……四年前にその魔物、【アルキレシィ】が使役しえきされていたとしたら。


「ああ。可能性はあるだろ?……操れれば、事故にだって見せられる」


「うん……あると思うわっ。益々、陰謀説いんぼうせつ濃厚のうこうになるわねっ」


 二人でうなずき合う俺とミーティアに。


「えっと……お二人とも?」


 イリアは疑問符を浮かべている。

 俺とミーティアは二人で納得だ。


 はてなマークが頭の上に浮かぶイリアに、俺は言う。


「イリア。その魔物……【アルキレシィ】だっけ。その魔物を調べようぜ、三人でさ」


「……え!?で、ですが、お二人にはお二人の――」


「いいんだ。な?ミーティア」


 俺はミーティアを向く。

 するとミーティアは、何の躊躇ためらいも無く返事を。


「ええ、出来ることをしましょう。私は……トレイダとしてだけれど」


 勝手に決めてしまったけど、ミーティアは同意してくれた。

 やっぱり、考えが似てるのかな……それとも、常に俺を……俺の考えを、尊重そんちょうしてくれているんだろうか。

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