4-65【私の夢2】



◇私の夢2◇


 今の俺の役目は、この女の子二人を……誰にも見られない事だ。

 当然だが、男子寮には一年生から三年生の生徒と管理人がいる。

 依頼やサポートで出払っているとしても、きっと誰か一人はいるんだ。


 そんな男子寮……今から寮内に入るのは、女子二人だ。

 見られたら、確実に俺がアウトなんだよ。

 入学早々、女子二人を自分の部屋に連れ込んだ金髪の少年……しかもそいつは首席の弟と来たもんだ……ヤバイ、確実に破滅だ。


「――よしっ!いいぞ。今なら行けるっ」


 手で合図を出して、二人を招く。

 物影に隠れていたミーティアは、イリアの手を引いて移動を開始する。


「よし、急いで」


 俺とミーティアの部屋は二階の角部屋だ。

 階段も近くにあって、移動は楽だが人がいる可能性もある。

 過ぎて行った二人の背を見ながら、俺は入口を再確認する。


「――げっ!」


 こちらに向かってくる……黒髪の男がいた。

 自称日本人、ユキナリ・フドウだった。


「……ん?おー!ミオっち!」


 やばいやばい、あいつも俺に気付きやがった。

 二人は上に向かったな……頼むから誰も廊下にいてくれるなよ?


「あ。ああ、ユキナリ・フドウ……今帰りか?」


「おうよ。また・・失敗だってさ!見てくれよ~、この評価~」


 ユキナリは笑いながら俺に評価表を見せる。

 何気なく受け取り、確認すると。


(そんなひまはないけど、時間を稼ぐしかないか……って!なんだこれ)


『総評・一点。一年生ユキナリ・フドウ。自分勝手すぎて、依頼に時間が掛かりすぎる。自由意思は尊重するが、集団行動には絶対に向かない。しかし、戦闘能力だけは見事……高難易度をクリア・・・できたのは彼のおかげでもある事は確かなので、評価が難しい所です。二年ジェド・タイナー』


「……」


 点数は一点だ……俺と同じように。

 だが、高難易度?クリア?


「いや~参っちまうよな!俺、入学してから全依頼の評価一点なんだわっ」


 嫌味に聞こえるっつの。

 だが、俺もだよ。


「……高難易度、クリアしたのか?」


「ん?ああ……まぁね。依頼はともかく、問題は先輩さんとの交流なんだよなぁ」


 高難易度……つまり、それだけで四~五点を取ってるんだ。

 同じ最低評価でも……それだけでそうとう点差が開く。


 俺たちは、低難易度しかやっていないからな。

 もう、結構な差が開いてるのかもしれない。


「そんじゃ、疲れたし物置に戻るわっ!そんじゃあな、ミオっち」


 手をブンブンと振り、ユキナリ・フドウは走って行った。


「あ、ああ」


 やっぱり、ユキナリ・フドウの実力は確かだ。

 俺は、チート能力をアホほど積まれただけで……何も出来てない。





 コッソリとドアを開けて、入室する。

 何故なぜ自室に入るのにコソコソせにゃならんのだ……!


「……ミオ!平気?」


「お、トレイダになってるのか?」


「う、うん……すぐ戻るけど、ミオが遅いから」


 ああ、迎えに来てくれるつもりだったのか。

 ユキナリ・フドウとの会話を聞かれなくてよかった……今は自分の心配をしている場合じゃないからな……それよりも、イリアの事だ。


 シャワールームで男に襲われるだなんて、絶対にあっちゃいけない。

 この子はどうやら、ユキナリ・フドウのように一人部屋らしいから……一人にしておくのは危険過ぎる。


「悪いなミーティア。心配をかけた……で、イリアは?」


 自分の気を逸らすように、俺はミーティアに笑いかける。


「今、お茶をれて飲んでもらってるよ……あ、【幻夢の腕輪】解除」


 パァ――と、一瞬でミーティアに戻った。

 よし……それじゃあ、話をしようか……イリアと。

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