4-63【怪しい男?】



◇怪しい男?◇


 新能力――【感知かんち】。

 チート能力ではない、誰でも習得できる……この世界では一般的な力。

 俺は新たにその力を得て、他人の魔力を感じるようになった。

 悪意を持って見て来る奴からの反応を、自分の魔力で察知さっちする事が出来るんだ。


 シャワーで泥を落とし終えて、俺とトレイダは訓練場に戻ろうとした。

 しかし――その瞬間。


「――きゃああああああっ!!」


「なんだっ!!」

「悲鳴っ!?」


 女性用のシャワールームの方角から……甲高い悲鳴。

 考えずとも分かる……今の時間、いるのは一人――イリアだ。


「――行こうっ!ミオ!!」


「あ、ああっ!」


 こういう時のトレイダは頼りになるな。

 俺とトレイダは顔を見合わせて向かおうとする。


 そしてトレイダは、右腕をかかげて。


「【幻夢の腕輪】!解除っ!」


 魔力の光はトレイダを包み、一瞬にしてトレイダを女性の姿に戻す。

 俺は、誰にも見られていないかだけに集中して警戒。

 変身が終わったのを確認して。


「――ミーティア、中は頼むっ!状況が分かったら呼んでくれっ!」


「了解よっ!」


 そうして、俺とミーティアは走り出した。

 向かう先は……反対側にもうけられた、女性用シャワールームだ。





 急いで走る……その途中。

 視界に一瞬だけうつる、何者かの影。


「――今、誰か通った!!」


「えっ!?じゃあ……まさか」


 犯人かも知れない。

 イリアに叫ばれて、逃げたのかも。


「俺が追う、ミーティアはシャワールームを!」


 答えを聞く前に、全力で駆ける。

 ミーティアならしっかりやってくれるはずだ。


 それよりも、今ちらりと見えた奴が悲鳴を出させた奴なら、絶対に捕まえる!

 痴漢か覗き魔かしらねぇが、ハーフエルフのシャワーを安く見れると思うなよ!!


「……いやがったっ!――おいっ!!あんた……待てコラッ!!」


 ちっ!――中々に速い!こっちは魔力不足でへとへとだってのに!

 黒ずくめ……完全に不審者だ。

 変態は何処どこの世界も同じってか!


「――ちっ」


 俺の声を聞き、男?は舌打ちをして速度を上げた。


「……待てって!このやろっ」


 右手を向けて、【無限むげん】を使い床の滑性度かっせいどを上昇させる。転べっ!!


「――うおぉぉっ!」


 キュキュキュ――ドスン――!!と転び、動かなくなる黒ずくめ。

 よし……これで後は――っ!?


「――魔力・・!?」


 俺の後方から、まるで後頭部を狙った様な魔力のかたまりを【感知かんち】した。

 早速発動する【感知かんち】に感謝しつつも、邪魔をされたとはっきり認識する。


「ちっ……誰だよっ!!」


 咄嗟とっさに身体ごと飛び退いて、受け身を取りながら叫ぶ。

 しかし、返ってくるのは――連続魔力弾。


「くそっ――問答無用かよっ!!」


 連続して飛んでくる魔力のかたまり、つまりは魔力の弾丸だ。

 魔法とは言えない、ひねり出したかのようなものだが、牽制には充分。


 頭、身体、足元……数ヶ所を狙ってきている。

 俺はけ続けるも、途中で気付く。


(……どんどん引き離されてるっ!くそっ……グルかよっ!!)


 この攻撃は、黒ずくめの不審者への援護だ。

 俺に攻撃を連続で行って、不審者を逃がそうとしているんだ。


「――【むげ】……んっ――!?」


 反撃しようとこころみたが、遅かった。


「……なんなんだよっ!俺はっ!!」


 臨機応変に対応できない自分への苛立いらだちに、俺は叫んだ。

 不甲斐ふがいなさすぎるんだよ……【無限むげん】すらまともに発動できない。

 今までの自分が、如何いかに他者に守られていたのだという事を……俺は、知ったんだ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る