4-62【感知】



◇感知◇


 俺の集中力の欠如けつじょの結果……もう予想もついているだろうけど、俺たち三人は泥だらけになっている。

 いつもの俺ならありえないほどの、中途半端な気持ちで使った【無限むげん】の石は、サイズ的に雪合戦の時の雪玉の様なサイズだったのだが。

 それが……二人に当たった瞬間に破裂してさ。

 見た目は石なんだ……でも、表面は風船のようで、中身は泥……泥団子だよ、まさしく。


 イリアに当ててしまった瞬間のトレイダの顔と言ったら……もう、ヤバかったよ。

 『ごごごごごご、ごめん!!』ってさ、地震かな?って思った程に震えてたからな。

 でもってその矛先ほこさきは俺に来るわけさ……当然だよな。

 だから俺も反撃した……って訳で、三人そろって泥だらけさ。


 そして現在……俺とミーティアは、訓練場にもうけられている男性用シャワー室だ――二人でな。


「ぜ、絶対に見るなよっ!?」


「み、見ないよっ!ちらっ……」


 見てくるんだよっ!この人!先に終わったからって余裕出しちゃってさ!

 自分が変身して本来の身体じゃないからって!ズルいぞ!!


 当たり前だけど、泥だらけなんだからシャワーは浴びるさ。

 本当なら、別に一緒じゃなくても……と思ったのだが。

 あの視線が気になったんだよ、それを……ミーティアと話したかったんだ。


「なぁトレイダ……気付いたか?」


「あ~……やっぱり。あの舐める様なやつでしょ。それが気になって、魔法に集中できなかったんだね?」


 個室でシャワーを浴びながら、俺はあの視線をミーティアも感じていた事に安堵あんどした。俺だけじゃなかったんだなってさ……しかし、その状態で普通に接してたのか、凄いなミーティア。


「……すまん」


 もうバッチリだよ、流石さすがだ。


「でも、ミオも【感知かんち】出来るようになったんだね」


「――【感知かんち】……?」


 ミーティアのその言葉は、まるで新しい力を覚えた……そう取れた。

 そして実際、それは正解だったようで。


「冒険者には必須のスキルだよ……【感知かんち】。魔力を持っている人なら、誰でも発現する可能性があるスキルだね……まぁ、ハーフ以外なんだけどさ」


「そうか……あの時感じたのは魔力か。だから……」


「うん。周辺にいる人の魔力を【感知かんち】して、自分の中の魔力が反応するんだ……だから違和感を覚える。悪意とかには、特にね」


「くっ……その違和感のせいで、ミスしまくったのか」


 対応できれば何とかなった気もする。

 だけど、なんで急にその能力を?


「急に違和感を感じたって事は、ミオの魔力が成長したんだね……僕も、覚えたのは今年の初めなんだけど……舐められてるみたいで気持ち悪かったよ、あはは」


 俺はシャワーを浴びながら、自分の成長を知った。

 魔力が成長したのか。そして発現した能力が【感知かんち】という事だ。

 この能力は、チート能力では無い……純粋に、俺がこの世界で初めて手に入れた能力だ。


「ミー――じゃなくて、トレイダも?」


「そうだよ。もう少し早く覚えてたらって……思ったけどさ、【感知かんち】は人の魔力しか感じられないんだってさ、魔物の魔力はまた別の能力なんだって。ジルリーネがそう言ってたよ」


 もう少し早く……って言うのは、きっと村に魔物の大群たいぐんが現れた時だな。


「そっか。あの時は、村で待機してもらってたもんな……でも、魔物の魔力は別?」


「そうだね。魔力の質が違うからだってジルリーネは言ってた。魔物を察知さっちする能力……対魔物クラスの僕たちは、先にそっちを覚えたいよね?」


「あ~確かに、はは……全くその通りだな。おし、終わりだ」


 タオルで髪を拭きながら、俺はシャワールームから出る。

 今日の訓練はお終いだ。

 【感知かんち】習得なんてハプニング?もあったが、トレイダとイリアを会わせる事も出来たし、上々だろ。

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