4-57【自主練始めました2】



◇自主練始めました2◇


 訓練場の二階部分……そこは、この訓練場で戦闘の発表や武闘会などが開催される際に観客席になる場所だ。


「あの一年坊主……まさか俺のメイドに手を出すつもりか?ふっ……キルネイリアも馬鹿な女だ……ハーフ・・・の分際で冒険者に成れると、本気で思ってるのか?」


 物陰から、ロッド・クレザースはその様子を見ていた。

 茶髪を掻き上げ、笑う姿はキザったらしくはなく、本心から思っての行動だろう。


「馬鹿な奴だよ。半端者はんぱもののハーフに、冒険者なんて勤まる訳ないだろうに……なぁ?そうだろ、お前ら」


 ロッドの後ろには、更に数人の取り巻きが控えていた。

 まるでロッドの機嫌をうかがうように、ロッドの言葉に笑みを浮かべている。

 ロッドは見下ろす……その少年と自分のメイドを。


「ちっ……笑いやがって」


 自分には見せないような笑顔で、金髪の少年にびを売るいやしい女。

 メイドとして使ってやっているのに、冒険者にさせると思っているのかと。


「どうやら、自分の立場を理解してないようだな……キルネイリア。そしてミオ・スクルーズ。ふふ……ふふふふっ」


 憎々しくも笑いながら、ロッドは訓練場を後にする。

 その後を、数人の取り巻きがついていく。

 同じ様に――不気味に笑いながら。





「では――行きますっ!」


「――いつでもどうぞ!」


 キルネイリアさん……イリアさんは素早かった。

 クラウ姉さん程ではないが、姿勢の低い飛び出しは見事だった。


「――速いっ!?」


 イリアさんの得物えものは短剣の二刀流だそうだ。

 今は短めの木剣を二本持っている。


(だけど……ついては行けるっ、速いけど……動きは読める!)


 カーーンッ――!!カンッ!カカンッ!!

 訓練場に響く、かわいた木剣の音。

 他の生徒などいない。皆今頃、きっと依頼を受けているだろうからな。


「ほっ!」


 俺はななめ下から木剣ぼっけんを振るう。

 イリアはそれを二本の木剣ぼっけんで防ぐが。


「――くっ……きゃっ!!」


「あ」


 イリアさんははじき飛ばされて、尻餅をついた。

 俺としては、本当に軽く振ったつもりなんだけどさ。


「大丈夫ですか?」


「……すみません」


 なんだろうな、この不自然な感じ。

 思えば、前回もそうだ……感じる微量な魔力、一般人のメイドさんだと思っていたから、そう気にしないようにしてたけど。


「もう一度お願いします!」


「あ、はい!」


 こうして、何度も……何度も何度も。

 イリアさんは俺にいどんで来た。


 まるで自分にかかる呪いを解く為、奔走ほんそうする旅人のように。





「……はぁ……はぁ……あ、りがとう。ミオ」


「いや、俺も動けたし……お互いさまですよ、イリアさん」


 実はそんなことは無くて、まだまだ動ける。

 能力――【丈夫ますらお】で、筋力が成長した俺は、体力だって成長している。

 今は、魔力だけが足りない感じだな。


 前にジルさんも言っていたが、魔力が無くなれば意味が無いんだ。

 いくら体力があっても、能力や魔法を使うには魔力……MPが必要だもんな。

 そう言えば昔、MPが0になっても戦闘不能になるゲームがあったな……そんな感じだ。


「……あなたは……魔物よりも対人戦が向いているのではないですか?」


 起き上がり、イリアは言った。

 俺はそれに返す。


「クラス分けの試験で、剣技と少しの魔法で行ったんだよ……その評価が、対魔物クラス。魔法で邪魔して……剣でトドメを刺す。そんな感じかな?」


 フランクに話している事に気付かず、俺はイリアさんに言う。

 イリアさんも然程気にする事はなく。


「……そう、ですか……それでも、私よりは」


 自分の不甲斐ふがいなさを木剣ぼっけんに籠めて、地面に刺す。

 しかし、切り替えたのか笑顔で。


「今日はありがとうございました……出来れば、またお暇な時にお願いします、ミオ」


「ああ、勿論もちろんだ……あ。で、ですよ……」


 今気づいた、普通に口聞いてたわ……やべ。

 な、生意気だったよな。


 しかし、そんな俺の対応にも……イリアさんは笑って言う。


「ふふっ……いいですよ。私の事も呼び捨てにしてください……その方が、私としてもやりやすいですから」


 俺は「そ、そう?」と返して、二人で笑った。

 こうして俺とイリアさん――イリアの……自分と向き合う為の自主練が始まるのだった。

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