4-58【不機嫌な説明1】



◇不機嫌な説明1◇


 俺が訓練場での自主練を終えて、部屋に帰ると。

 ミーティアが迎えてくれたんだ……入口で。


「――おかえりなさいっ」


「おわぁ!ちょ、ちょっとトレイダ・・・・!」


 俺は慌てて、直ぐにミーティアの背中を押して部屋に押し込んでいく。

 入口でその姿は駄目だめだって。外から見えちゃうだろっ。


 俺はなんだか、ペット禁止のアパートで隠し飼いしている気分になった。

 え?……内緒で同棲じゃないかって??……るせっ、人がにごしてんだから飲み込んどけ!


「わ、わ……ミオ?」


「いいからほら!奥に行くよっ」


 学生の二人部屋にしては広い部屋に入って行き、ベッドに座らせる。

 少しお説教だ。精神年齢が年上なんでね。


「ミーティア……少しは危機意識を持たないと駄目だめだよ?ほら、しかもその格好……もうどう見ても女の子だから」


 普段はトレイダ・スタイニー……男子として、この部屋から依頼サポートにおもむくのだ。

 ミーティア・クロスヴァーデンとしては、しっかり学校側が認知しているのだろうけど……やっぱり同棲は駄目だめだろ。

 ほら、こちとら青少年の健全な身体なんでね。


「でも……」


「でもじゃない」


「だけど」


「だけども駄目だめだ」


「むぅぅ~」


「か……」


 ほほふくらますミーティア。

 普段はしないような……駄々っ子の様な仕草しぐさだ。

 悔しいが――可愛いいいいい!!畜生ちくしょうっ!!


「そ、そんな顔をしても駄目だめだからっ。この部屋にいる間はいいけどさ……やっぱり見えるところはきちんとしないと、ミーティアだって分かるだろ?」


「それは、分かるけど……だって、ミオに可愛いって思われたくて……」


「……くっ」


 絶賛思ってるんだよ!!理性がヤバいんだからなっ!

 頼むからこっちの気にもなってくれよぉ!

 だ、駄目だめ駄目だめだ!心を鬼にしろ、そんな場合でもないんだ!

 このままじゃ……進級できなくなる!


 まだ……五月だ。

 自分があせっている事にも気付かず、俺は。


「とにかく駄目だめだよ。部屋にいる間はいいとしても……それ以外はトレイダで頼むよ。ミーティアだって、目標があるから学校ここに来たんだろ?」


「……うん。それはそう……」


 言いくるめるしかない。


「なら、我慢しよう。一緒にはいられるんだし、可愛いとは常に思ってるから……な?」


「――う、うんっ!」


 あれ?なんか俺……サラッと恥ずかしいこと言ったか?もしかして。


「よ、よし。じゃあこの話はおしまいだなっ」


「うん。それじゃあ……ミオ、それは分かったから、聞かせて?」


 よかった。納得してくれたみたいだ。

 これで、部屋の入口で女バレする事も無くなるだろう。


「ん?なんだい?」


「――今日は、どこに行ってたの?」


 なんだ、そんな事か。

 ミーティアは、俺が今日一日……どこで何をしていたのか知らないんだもんな。

 そういえば、何も言わなかったかも。


 だから俺は、今日の事をミーティアに説明する事にした。


「……ああ、今日はさ――」





 説明を終えて……ミーティアは。


「へぇ……ロッド先輩のメイドさんと、仲良くしてたんだ?」


 あれ?なんか声のトーンが……おかしくありません?

 それにちょっとニュアンスが悪いって、仲良くなんかしてないから。


「な、仲良くって……ミーティア、言葉を選んでくれよ。訓練だからさ、訓練」


「へぇ、ふぅん……いいねぇ、ミオはす~ぐ女の子と仲良くなって」


 いや、聞いてます?

 ヤバイ……なんだかおかしな事になってきた気がする。


 終始悪気はなかったんだけど。

 まぁ、結果的には……俺が悪いんだろうな……多分。

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