4-56【自主練始めました1】



◇自主練始めました1◇


 ロッド・クレザース先輩の依頼を成功させた翌日以降、俺とトレイダ組は依頼のサポートはしていない……だって、スカウトが来ないんだもの。


「ふっ!はっ!――たっ!!」


 汗を飛ばしながら、俺は学校に併設へいせつされた訓練場で木剣ぼっけんを振るう。


「――せあっ!」


 ブンッ――と音を鳴らし、空を切る。

 動く度に汗が飛び、地面にしたたる。


「……はぁ、はぁ……あちぃ~」


 陽射ひざしが凄い。

 五月だからまだ涼しい……そんな考え甘かった。

 夏のように暑い……村とは大違いだよ。


 村は自然が多く、木々のおかげで避暑ひしょが出来ていたが、しかし【ステラダ】は全く違う。


「……クラクラして来たな――あれ?」


 汗を拭きながら訓練場を見渡していると。

 黄緑色の髪をなびかせた女性が、俺と同じく訓練をしていたのだが。


 あれって……確かロッド先輩のメイドさんじゃないか?

 ここにいるってことは、あの人も生徒だったのか?

 従者じゅうしゃと兼業?


「……?」


 あ。目が合った。

 女性がこっちに歩いてくる……スラッとしてんなぁ。


「こんにちは……ミオ・スクルーズ」


「あ、ども……えっと」


 名前何だっけ?

 普通にメイドさんだと思ってたから、覚えてないぞ。


「――キルネイリア・ヴィタールと申します。あなたと同じ一年です」


「え」


 ど、同級生だった。


「対魔物クラス……B組です」


「……す、すいません」


 しかも同じクラスだった。


「いえ。同じクラスと言っても、実習は違いますし……私はそもそも実習参加率がとぼしいので……」


「あ~……先輩のメイドだから?」


 キルネイリアさんは少し言いにくそうにしながらも、首を縦に振る。


「……はい。その通りです」


 使用人であるキルネイリアさんは、ロッド先輩の家であるクレザース家から命じられてこの【王立冒険者学校・クルセイダー】に入学したそうだ。

 しかし、目的はあくまで坊ちゃんのお守り、なのだろう。


「でも、それならなんで訓練を?」


 メイドが主な仕事なら、訓練場にいる意味は?


「……それは」


 キルネイリアさんは言いよどむ。

 ん?もしかして、この人。


「もしかして、本当は冒険者になりたいんですか?」


「――!!」


 おどろいた表情を見せるキルネイリアさん。

 しかしそこまでおどろかなくても……なんとなくさっせるって。


 この人はメイドとしてじゃなく、冒険者として頑張りたいんだな。

 だってそうだろ、仕える家の命令とは言え……訓練場で練習までするか?

 本職はメイドだろ?


 だけどこの人は自分で選んで、こうやって自主練してんだろうな。

 俺も同じさ……だから、俺は咄嗟とっさに言ってしまっていた。


「……それなら。一緒に訓練しますか?」


 ミーティアに何も言わずに誘ってしまったのは失敗かも知れないが。

 いいよな、訓練くらい。


「え?い、いいのですか?」


「あ……えっと、キルネイリアさんが、いいなら……ですけど」


 言い終わってから照れてしまった。


「私に断る理由はありません……ミオ・スクルーズ。三度、あなたの戦いを見て、実力は知っています……よろしくお願いします」


 深々と、前回と同じように頭を下げるキルネイリアさん。

 何というか、姿勢がいいんだろうな。

 こっちまでシャンとしちまうよ。


「そ、そうですか……ならお願いします。えっと、ミオでいいですから、年下ですし」


 多分だけど、俺が今年度の最年少なんだし。


「分かりました。では……私はイリアとお呼びください」


「イリア……さん」


「ふふっ……では、お相手お願いします」


 ああ、対応で分かる……この人、年上だわ。

 こうして、笑みを浮かべるキルネイリアさん……イリアさんとの合同自主練が始まったのだが、俺は気付かなかったんだ。

 まさか、イリアさんのご主人様……ロッド先輩に見られていたなんて……さ。

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