4-55【試行錯誤の五月】



試行錯誤しこうさくごの五月◇


 初実習から二週間がった。

 五月に入った【王立冒険者学校・クルセイダー】……現在、俺とトレイダがいる場所は、【ステラダ】近隣にある平原……【ラパース平原】だ。


「――そっちいったよ!ミオ!!」


「了解だっ!俺が斬るっ!!」


 相棒の言葉に、俺は【カラドボルグ】を右手で構え、こちらに向かってくる狼型の魔物【ディアウルフ】に金色の剣を向ける。

 すでに狼型の魔物はズタボロだ。

 トレイダから受けた弓矢のダメージが、思った以上に深そうだ。


「――はぁっ!!」


 ジャンプし、俺を嚙砕かみくだこうとした【ディアウルフ】を、俺は【カラドボルグ】で横にぐ。


 ザシュッ――!!


 俺の魔力による斬撃で、剣に触れることなく狼は両断された。

 不気味な魔力を噴出させて、魔物は消え去っていく。


 そして、どさりと……素材が落ちた。


「――よし。トレイダっ!先輩・・!!」


 俺は、二人を呼ぶ。

 トレイダと、今回サポートをしている先輩。


 ロッド・クレザース先輩だ。


「良かった。ナイスだよミオっ!」


 トレイダも数体倒しているし、俺も五~六体は倒したぞ。

 そして、ロッド先輩は。


「――はいはいお疲れ、素材回収頼んだぞ?」


 爪をぎながら、俺たちに指示を出す茶髪の青年。

 この人は貴族だ……偉そうな態度はムカつくが、これは実習であり俺たちの評価もある。


 下手な真似まねは出来ないんだよなぁ。


「――了解です。トレイダ」


「う、うんっ!」


 二人で素材を回収する。

 ロッド先輩は、従者じゅうしゃとみられるメイドさんが差す、大きな日傘の中で俺たちを見ていた。

 それにしても凄い荷物だな……あんな女性に持たせて、言い御身分だよな、貴族ってのはさ。


「ふぅ。やっぱり、男はこうやって使わないとな。なぁ?キルネイリア。お前もそう思うだろ?」


「……はい。坊ちゃん」


 ロッド先輩のそばで日傘を差す少女。

 黄緑の髪色を持つ、美人のメイドさんだ。

 首元でくくられた長い二本のおさげが似合っているが……少しだけ違和感があるんだよな。


 彼女は従者じゅうしゃであり、冒険者ではないらしい。

 でも、どことなく感じる魔力……本当に微弱だけど、村のアイシアと変わらない感じもするほどだ。

 貴族の生徒には必ず一人は従者じゅうしゃがいるので、つまりはそういう事なのだが、本当にただの従者じゅうしゃなのかな……?


「――終わりました、先輩」


「お、早いじゃないか……そんじゃあ、帰るか」


「……了解です。準備します」


 こんな感じで、俺はこの貴族の先輩の依頼を手伝っていた。

 実に、三回連続・・・・で。





「はいお疲れ。これ評価な……それじゃあ……またな・・・?」


 俺の肩を叩き、ロッド先輩とメイドさんは去っていく。

 メイドさんが去りぎわに、深~く頭を下げてくれるので、怒りは抑えられたけど。


「――お疲れ様です、先輩」

「お、お疲れ様です……」


 【ギルド】に戻り、俺とトレイダはロッド先輩から評価表を貰ったのだが。


「「……」」


 結果は……どちらも一点だった。


「また、一点だねぇ」


「だな。これで三連続だ……」


 ロッド先輩の依頼を手伝って、すでに三回目。

 その結果はいずれも一点。

 依頼達成を入れても二点だ。


「……あの人、男に厳しいってのは本当だな。うわさ通りの女好き貴族……か」


「はぁ……そうだね。厳しいって言うよりも、なんだか相手にしてないみたいだよ」


 トレイダはため息をきながら言う。

 まさしくその通りだった。


 俺たちのこの二週間は、試行錯誤しこうさくごの繰り返しだ。

 能力の試行と、魔物の勉強。

 せっかく頑張ってんのに……依頼を手伝うのがあの先輩だ、しかも三連続。


「『物運びに使える、一点。』……か」


「ぼ、僕の評価と同じだ……あはは……」


 ちなみに前回、前々回も……まったく同じ評価だったよ。

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