4-54【レイナ先輩の評価】



◇レイナ先輩の評価◇


 部屋に戻った俺と……【幻夢の腕輪】による変身を解除したミーティア。

 ミーティアはその足で風呂場に行った。

 フラフラと歩きながら……疲れ、取れるといいけどな。


「ふぅ……二点か」


 ベッドに座り、渡された紙を見る。

 クシャクシャです。にぎりつぶしたんで。

 【無限むげん】で元に戻せるけど……あえてこのままにしておこうと思う。


「はぁ……もっと出来たと思うんだけどな、全然駄目だめだった」


 その紙には、評価が書かれている。

 レイナ先輩が一日中メモってたやつだな。


 嚙みしめるように、俺はもう一度その紙を見る。

 そこには、こう書かれている。


『総評・一点。一年生ミオ・スクルーズ。戦闘能力は申し分ありませんが、周りと合わせる事を苦手にしている節があると見られます。それと、一度の失敗を引きずる傾向けいこうがみられます。初手の失敗を取り返そうとする根性と挑戦心は見事ですが、空回り感はいなめません。しかし、魔法の発動スピードは見事。詠唱のない短縮魔法は、一級の冒険者でも対応は難しいでしょう。初実習ということもあり、魔法と剣技だけを見れば二点を入れてもいいかと思いましたが……今後もっと良くなると想定して、一点とさせて頂きます。個人的には、またサポートをして欲しいと思いました。二年・対魔物クラス……レイナ・ハブスン』


 軽い口調はない。

 ガチの評価だ……レイナ先輩、根はしっかりしているらしい。


「……期待はされていると、言って良いのかな?」


 完全に的を射ていると思ったよ。

 確かに、俺の悪いくせだと言ってもいい。


「あの人、意外とちゃんとチェックしてたんだな……」


 明るく元気な、小動物系の先輩――レイナ・ハブスン。

 語尾を伸ばすしゃべり口なんて、評価表には一切なかった。

 そうだよな……先輩も一年前に、こうやってやられてたんだもんな、きっと。


「……失敗を引きずる、か。本当にその通りだよ……引きずってばかりだ」


 ベッドに大の字になり、天井てんじょうを見る。

 切り替えねぇと……評価されている点だってあるんだ、そこをもっと伸ばして、出来なかった事をやっていくしかない。

 勉強だ。魔物の事も、能力の事も……もっと知らないと。

 俺は、このまま終わらないぞっ。





 風呂上がりのつやっぽいミーティアも、渡された紙を読んでいる。

 タオルで髪を拭きながら、自分の評価を受け入れる。


 俺は知らないその評価の内容は。


『総評・二点。一年生トレイダ・スタイニー。体力不足。それに尽きると思いました。そして、周りを見る観察眼かんさつがんや気遣いが出来る反面、自分の事をおろそかにしているように見えました。特に、相棒に気を遣っている。そう私はとらえて総評をしました。それでも、まるでエルフ族かのような弓での援護、サポートの魔法は……見事。組む相手によってはその実力も上がると思い、二点とさせて頂きます。二年・対魔物クラス……レイナ・ハブスン』


 ミーティアは声には出さずに、その評価を飲み込む。

 そして、笑顔で俺に言う。


「いや~、難しいわね……でも、勉強にはなったかな……」


「ああ。俺もだよ……ボロボロだったけどさ」


 肩をすくめる俺に、ミーティアは「そんな事は……」と言ってくれるが。

 俺の予想だと、トレイダとしての評価は良かったんだと思う。


 足を引っ張ったのは……きっと俺だ。

 この失敗からの始まりをどう挽回ばんかいするか……俺たちの冒険者学校での始まりは、こうして終わって行ったのだった。

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