4-53【疲れよりも】



◇疲れよりも◇


 【ナスタール森林地帯】を抜けてキャンプ場に戻り、俺とトレイダ、そしてホクホク顔のレイナ先輩は運よく、帰る所だった他の生徒に鉢合わせる。

 馬車に相乗りさせてもらい、そのまま【ステラダ】に向かった。


 馬車の中で、俺は一枚の紙を見ている。

 それは、一年生がすべき事が書かれたマニュアルのようなものだ。

 そこには、こう書かれている。


『一年生は、二年生の依頼をサポートし、依頼を成功させることでポイントを一点貰える。依頼の難易度によって、点数は最大五点まで増加し、サポートされた二年生の評価を加えると、最大で八点のポイントが稼げる。半年ごとに、その点数に応じた試験が出され、来年度までにクリアする事で、進級を認められる』……と。


「……」


 依頼はクリアした。だから一点は貰えるんだ、それだけでもよかったよ。

 でも、レイナ先輩からの評価はどうだ?今回の依頼、おそらく最低の一点の依頼だろう。初回だしな。

 だから、レイナ先輩の評価が最大なら……合計四点のポイントが貰えるはずだ。


「ミオ、平気かい?」


 馬車に揺られながら、トレイダが心配してくれる。


「ああ。トレイダは?」


「大丈夫だよ。でも、疲れよりも……不安が大きいかな」


 トレイダもか……俺もだよ。


「……そう、だな」


 トレイダも同じ考えだったみたいで少し安心したかな。

 今回の依頼自体は簡単だったはずだ。

 魔物もそれほど強い存在ではなく、倒すことも容易よういだった。

 でも、立ち回りは完全に失敗だった気がする。


「ただ倒すだけじゃ、駄目だめなんだな……」


「そうだね……もっと聞いておくんだったよ、はぁ……」


 トレイダが言うのは、きっとミーティアとして、ジルさんに。という事だろう。

 俺もだな。突然の冒険者学校への入学、村でのやる事の多さにかまけて、肝心の冒険者学校の中身を見てなかったんだと……猛省だ。


「――頑張ろうね。ミオ」


「……ああ、だな」


 そうして、二人は暗いまま……深夜には【ステラダ】に到着したのだった。





 【ステラダ】に到着すると、俺たち三人は【ギルド】に向かった。

 夜間営業もしていると言うのは、冒険者にとってはありがたいな。


「はいよ~!依頼の成功報酬!」


「え。俺たちも貰えるんですか?」


 普通におどろいたな。

 特に俺は、魔物一体も倒してないんだぞ?


「当ったり前じゃ~ん!手伝ったのは確かなんだからさ!」


 レイナ先輩は、受付に【ファングタイガー】討伐の証拠しょうこを提出した。

 そして報酬を受け取ったのだが、俺たちも貰えた。


「……げ、現金だ……」


「だね」


「……ふっふっふ~。むしろ安いくらいだよ~……【ファングタイガー】の素材がメチャクチャ落ちたからね~。売った方が資金になるっ!」


 なるほどな。

 だからレイナ先輩は終始ホクホク顔なのか。


「でもって……はい。二人の評価表だよ。私からの評価が書いてあるよ……この評価は、学校で共有されるから、次のサポートをする時……二年がそれを見てスカウトしてくると思うから、ま~頑張んなよ?落ち込まないで・・・・・・・さっ」


 落ち込まないで、か。


「……一点だ。依頼成功と合わせて、合計二点か」

(だよな……予想通り、つまりは最低点だ)


「二点だ……」


 トレイダは合計三点という事か。


「……」


 俺はトレイダよりも低い点数だった……正直、悔しい。

 俺は、後ろに隠したその紙を……クシャリとにぎりつぶした。


 でも、そうか、この点数――二点から始まるんだな。

 俺の、冒険者学校での――物語が。

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