4-52【魔物も素材も無くなりました】



◇魔物も素材も無くなりました◇


 開口一番、トレイダは俺が開けた大穴を見て言う。


「――な、なんなの?……これ……?」


 言葉の端々はしばしから戸惑いが聞いて取れる。

 当然だ……ここは俺たちが先程通ってきた場所、つい今まで道になっていたんだからな。


「……悪い、俺の魔法だ」


 大穴と俺を交互に見ながら、トレイダは非常に顔を青くしていた。


「ミ、ミオの……魔法?これがっ!?」


 そりゃあおどろくよな。だって俺もおどろいてる。

 音も無く、一瞬で地面に大穴だもの。


「……地面の操作?」


 俺が得意としているのを知っているからか、トレイダは聞く。

 確かに、地面に穴……俺がよくやる芸当だ。

 でも、違うんだよ。


「――いや……違う魔法、なんだけど……」


 これは誤魔化ごまかしも効かなさそうだ。

 何故なぜならば。


「……使えない……」


 この大穴を直そうと、俺はトレイダが来る前に【無限むげん】を使おうとしたんだ……だが、【破壊はかい】によってえぐられた穴の断面には、【無限むげん】が作用しなかったんだよ。


(数値がバグってる……)


 【無限むげん】でいじる為の数値が、【破壊はかい】でえぐられた地面にはなくなっていた。


 完全に、数値まで破壊していたのだ。


「どうするかな……これ


 勿論もちろんだが、放っておく訳には行かないよな。

 この【ナスタール森林地帯】には他の生徒も来るし、冒険者だって来る。

 誰かが落ちたら俺のせいだしな。

 それだけは勘弁かんべんだよ。


「ミオ、周辺は?」


「周辺?あ~そうか……やってみるよっ」


 トレイダの言葉に、俺は周囲を見渡して確認する。

 【破壊はかい】の影響で【無限むげん】が使えない箇所かしょ、それ以外の場所の数値をいじろう。


「――【無限むげん】っ!!」


「……むげん?」


 トレイダの疑問ぎもんの声に、俺は気付かなかった。

 状況に混乱して、魔法ではないような言葉で発生させたその地面操作。

 トレイダは追及ついきゅうしてこなかったが……これは、完全に俺のミスだ。





「きょ、距離が遠いっ……!」


 右手を振るって、穴の外側の地面を伸ばして大穴に橋を掛ける。

 それを何度も繰り返し、元の地面に戻していく。

 見かけだけ、なんだけどさ。


 今俺が掛けた橋の下には、大穴がそのまま残っているのだ。

 だから強度もメチャクチャ高くして掘れないようにするし、壊されない様にする。

 その数値いじりが辛い。魔力が心許こころもとないんだよ。


「……す、凄い……」


 トレイダは感嘆かんたんとしているが、俺はもう瀕死寸前だった。

 【破壊はかい】での魔力消費が……えげつなかったんだ。


 残りの魔力が辛い。

 見た目だけなら元に戻って来たけど、穴は残ったままなんだよな。

 これ、横から掘ったらどうなんだろうな。


「――お~お~。スッゴ~イねぇ!それが君の魔法か~!」


 少し離れた場所で【ファングタイガー】を狩っていたレイナ先輩も、こっちにやって来た。もうホクホク顔ですね。

 大きな袋を、肩に乗せた槍に掛けて。


「先輩、その荷物……素材ですか?」


 トレイダが言う。


「そ~言う事!もう大量よっ!」


 満足そうにうなずくレイナ先輩。

 しかし、聞きたくない言葉が出てくる。


「――で?君たちの方は?」


「……」


 無言で俺を見るトレイダ。

 トレイダは、自分が倒したとみられる【ファングタイガー】の牙を一本持っていた。


「あ。すいません……俺は無しです。魔物は全部倒しましたけど、素材は……無しです」


「あ~、落ちなかったか……運ないね~」


 レイナ先輩に悪気はないんだろうが、心に刺さった。

 魔物は、命を落とすとその場にとどまらずに魔力を分散させる。

 その過程で、素材となって残るのだ。


 俺の能力の一つ【強奪ごうだつ】は、素材を100パーセントドロップさせると言うものだ。

 しかし、穴に落ちたか……それとも【破壊はかい】で消滅したか分からないが。

 なんにせよ、俺の収穫は……無しだ。


「すいません……」


「いやいや~。目標は達成したしね、別に謝る事じゃないよ~」


 目的は達成した。二年生の依頼である【ファングタイガー】の討伐。

 成功の証拠しょうこになる素材だ……確かにレイナ先輩の依頼は成功だろう。


 でも……俺の評価は?きっと、減点だ……と思う。

 俺の冒険者学校の初依頼サポートは、失敗だらけに終わったのだった。

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