4-38【クルセイダー3】



◇クルセイダー3◇


 自分たちのクラスを確認する新入生の俺たちだが、やっぱりどこも一緒なんだな。 

 特に若い世代はさ。

 俺やクラウ姉さんのような十代の新入生は、自分がどのクラスなのか、知り合いはいるのか、そんな感じで見ているように感じるよ。


 十代後半から二十代の新入生は、クラスに対して思う所があるのか、相棒同士で話し合っている。

 それよりも上の世代の生徒は、別の考えがあるのか興味きょうみなさそうだった。


(クラスよりも自分優先ってことかな)


 小声でつぶやいたつもりだったが、隣にいるトレイダことミーティアが。


「そうだね。僕たちのような若い世代は……正直余裕があるけど。年齢層が高い人たちは……ライセンス取得が出来ない人も出てくるだろうし、必死にもなるよ」


 三年は、長いようで短い。

 二年生に進級できず、準冒険者のライセンスを取れなければ、もうここにいる意味も無くなる。

 きっとその時点で、生徒も大勢減るんだろうな。

 事実として。二年、三年は人数が少ないらしいからな。


「そっか。大変だな……冒険者」


「僕たちもなるんでしょ?」


 そうだった。

 他人事じゃないな。


「あはは……――あ。トレイダ、あれって……」


 笑う俺の視界に、異常なまでの生徒とは違う人物がうつり込んだ。


「ん?」


 生徒じゃない、軍服のような物を着た男性。

 うわ……すっげぇ圧をまとって歩いてるんだが。

 俺の言葉に、トレイダはそちらを向きうなずく。


「ああ……アリベルディ・ライグザール大臣閣下だよ」


「大臣閣下……?」


 大臣って事は、この国の……だよな?――って事は、あの王女の……部下だ。

 俺を探してたって言う、あの王女の。


「うぐっ――いっ……てぇ」


 なんだ急に、胸が痛てぇ。

 俺は左胸を押さえ、苦しみながらも冷静に深く息をする。

 正直、この場から動きたかったのだが。

 しかし、そのライグザールって大臣はトレイダに気付いて。


「あ……」


 こっちに来るじゃん……大臣閣下。

 ライグザールと呼ばれた渋いオッサン大臣は、トレイダに向かって来ている。


「うむ、どうやら大丈夫なようだね。トレイダ君……」


「閣下……ご配慮下さり、感謝します」


 ぺこりと頭を下げるトレイダ。


 えっと……もしかして、知り合い?

 あ。じゃああれだ……トレイダがミーティアだって知ってるんだな、この人。


「なぁに、君のお父上には……近年にける王都への仕入れを増やしてもらっている。それに比べれば簡単な事だ。それで……」


 その射抜くような視線は俺に向く。


 な、なんだ……?

 この値踏みされるような感覚、ゾワゾワする。


「あ。はい!こちら、同室でパートナーの……ミオくんです!」


 え、俺を紹介すんの?

 正直、そんな余裕ないんだが。


「……は、初めまして大臣閣下……私はミオ・スクルーズと申します。【サディオーラス帝国】、【豊穣の村アイズレーン】から来ました。トレイダ君と同室させていただいています」


 どんな挨拶をすれば正解か分からんが、取りあえず当たり障りのない感じでいいよな?

 余裕が無いなりにも、何とか最大限の笑顔を見繕みつくろっておこう。


「……ふむ」


 え……あれ?

 なんでそんな……頭のてっぺんからつま先まで、見るんすか?


「あの、閣下?」


 トレイダの言葉に、大臣さんはハッとした様子を見せた。


「ああ、すまんね……つい、似ていたもので」


 似ていた?俺が?誰に?


「それよりも……【豊穣の村】と言ったか……ん?ああ、もしや野菜の」


「――!!」


 おお!知られてる!!大臣に!

 これって、村としてはそうとういい事ではないのか!?

 痛みも疑問も吹き飛ぶ情報だぞ!これは宣伝せねばっ。


「うちの野菜を存じてくれているなんて……嬉しいです!」


「ああ。とても新鮮で栄養価も高く、城でも重宝しているよ。特に、何だったか、ああ……アボカドだ。あの果実は大人気だよ。特に女性にな」


「――本当ですかっ!?良かったです。うちの特産なんですよ!」


「そうか。隣国とは言え……それは王女殿下でんかも喜ぶだろう、気に入っていたようだからな」


「……そう、ですか……それは光栄です」


 くっ……皮肉だな。

 あの日、何が目的かは知らないが、俺を連れて来いとジェイルに命じた王女。


 俺は、そのシャーロット王女に……絶対に会ってはいけない気になっていた。

 それが……自分が育てた野菜や果実で、まさか近付いてしまうなんてな。

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