4-34【複雑な朝】



◇複雑な朝◇


 おはようございます……ミオ・スクルーズです。

 早速ですが……俺は寝不足です。

 今日は、学校案内があるのですが……とても、辛い。


「……」


 男子寮にもうけられた二人部屋、広さはそれほどなく、リビングと寝室の併設へいせつされたワンルーム。

 仕切りすらないその部屋で……俺の隣のベッドには、ミーティア・クロスヴァーデンが眠っている。


 もはや変身を解除して、スヤスヤと眠っているのだ。

 くぅ、俺はほぼ一睡もしていないというのに。


「はぁ」


 こうやってミーティアが素のままで眠れるのも、様々な理由がある。

 第一に、生徒の部屋には教官はおとずれないのだ。

 誰かが来ても、せいぜい二年の上級生だな。


 歓迎会で、二年生の首席オズマさんが試験を率先そっせんしてやっていたように、この学校では、上級生が一個下の下級生の指導をするそうだ。


「ミーティア……」


 君は、本気でこの部屋でやっていくつもりなのか?

 三年間だぞ?自分だって大変な事は分かっている筈だ。

 それなのに、こうして潜入なんて事までして。


「う、う~ん……」


 ミーティアの肩をゆすり、起こそうとする……のだが、本当にスヤスヤだ。

 この寮に入ってからトレイダとして過ごした数日、ミーティアは眠れなかったらしい。

 【幻夢の腕輪】で変身している間、やはり不安だったのかな?


「ほら起きて。準備しよう」


「……ミオ?」


 はいミオですよ。

 起きましょうね。


「おはよう」


「うん……おはよう」


 ぽやーっとしてんね。

 まぁぐっすり眠れたならいいよ。

 考えることは俺がしておいたからね。


 さてと、俺も準備だ。

 学校案内は、同居人の二人一組だ。

 当然ミーティア……トレイダと一緒に行くつもりだけど、これバレたらどうなるんだ?学校側は、ミーティア・クロスヴァーデンを生徒として認めている。

 それならば、普通にミーティアとして通ってもいいはずだ。

 問題は、部屋が一緒だという事だけ……だけか?


「……どうなるんだろうな、これから」


 心底不安だ。




 そろそろ時間が来た。


 【幻夢の腕輪】でトレイダへと変身したミーティアを連れて、俺は寮の外に出る。とりあえずは、ボッチにならずに済んだな。

 二人一組なんて言う文化はほろびればいいんだ。


 俺は前世の苦痛を思い出しながら、隣にいるトレイダに視線を送る。

 やっぱり、どう見ても男なんだわ。

 中性的で美形ではある。

 しかしそうだと言われれば、ミーティアの面影もあるような気もしてならない。

 緑色の髪も、父親であるダンドルフ会長の髪を少し明るくしたと思えば納得だ。

 瞳の色は完全に変わっていて、この国の一般的な色……赤色だ。


「楽しみだね、ミオ」


「あ、ああ」


 声も……高いと言えば高いのだが、“少年っぽい”で納得出来る。

 不安をかかえる俺と、全然動じないトレイダ。

 まさか、新学期が始まる前から二人一組を求められるという、変な苦痛を味わいながら、その苦痛をミーティアによって逃れたと思って安心していた。


 そんな俺たちの前に、小柄な人影。


「――ミオ」


「……あ」


 そう言えば、この人はどうするつもりなんだろうね。

 一年生首席……クラウ姉さんはさ。

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