4-35【クラウの相棒】



◇クラウの相棒◇


 俺とトレイダは、学校の正面で鉢合わせた。

 小さな姉……クラウ・スクルーズだ。

 流石さすがに農家の娘だな、俺と同じで朝は早いんだ。


「おはよう。クラウねえさ――」


 朝の挨拶あいさつを……と、口にしたが。

 クラウ姉さんの隣には誰かが居た。

 

 ん?お隣さん?

 それにしても……なんだ、この魔力は。

 凄いな。


 その人の魔力は、神経をとがらせていないのにも関わらず、刺さってくるような感じで肌にピリピリと来ていた。


「おはようミオ。その子は?」


 俺と同じように、クラウ姉さんも俺の隣を見る。

 するとトレイダは。


「は、初めまして……ミオくんの同室の、トレイダって言いますっ!」


 緑色に変色した頭を下げて、トレイダ・スタイニーとして挨拶あいさつするミーティア。

 やっぱり、ミーティアとしては対応しないつもりなのか。


「これはこれはご丁寧に……私はミオの姉のクラウと申します、不束ふつつかな弟ですが、どうぞよろしくお願い致します」


 こらこら、日本人出てますよ。

 ペコペコと頭を下げるクラウ姉さんは、完全に保護者目線だった。


「それじゃあ、そちらは」


 トレイダが、クラウ姉さんの隣にいる人物に手のひらを向ける。

 あの凄い魔力の持ち主……だな。

 女性だ……しかし、大きい。


 あ。背だぞ?身長がデカいんだよ。

 あと魔力……他意はない。他意はない!!


「あ、ウチはラクサーヌ……ラクサーヌ・コンラッドだよ。見ての通り――魔族さっ」


 やっぱり、魔族か。

 凄い魔力だもんな……あふれ出てるぞ。

 ジルさんの授業で聞いていなかったら、魔物と間違いそうになるレベルの魔力だ。


 ラクサーヌ・コンラッドさんは、ピンクの髪にエルフとは違うとがり方をした耳。上向きにピンと立っている耳で、エルフのように横に長くはない。

 それにしても、明らかに一般人レベルではない魔力だ。


「――ミオ。分かってると思うけど……私の相棒よ」


 さっきも言ったけど、事前にジルさんに受けた授業。

 その中には魔族の事もあった。


 【ラウ大陸】。

 大昔、南に位置する大陸から侵略しんりゃくしてきた魔族は、数百年にも及ぶ長い軋轢あつれきて、受け入れられた。


 しかしいまだに魔王が存在し、大陸の西ではまだ争いが起きているという話もある。しかしド田舎の村には情報も何もなく、魔族がどれ程の怖さを持っているかは分からなかったんだよな。


 そんな魔族の女性が、クラウ姉さんの隣にいる。

 そういう事……なんだろう。

 なら、俺はクラウ姉さんを尊重そんちょうするさ。


「ああ。分かってるよ……姉がお世話になります。弟のミオです」


 ラクサーヌと名乗った魔族の女性……悪意は感じない。

 手を差し伸べると、おどろいたような顔をされた。

 だが、俺からすれば想定内だ。


「……弟君も、クラウと一緒だね。差別しないんだ」


 そうだ。魔族はいまだに――人類の敵と言われているらしい。

 魔王も存在するし、戦争も一定の場所では続いている。

 そんな中でも善良な魔族がいるのもまた、世の中だ。


「クラウ姉さんが普通に接しているのなら、俺もそうしますよ。別に差別する気もないですけど。ミ……トレイダもそうだろ?」


「え。あ、うん……勿論もちろんですっ!」


「――私の弟なら当然。言ったでしょ、ラクサーヌ……安心してって」


「だねー。びっくりだぁ」


 だが、笑顔だ。

 クラウ姉さんよりも頭二つ以上背の高い魔族の女性。

 ジルさんと同じくらいか……?


 ラクサーヌ・コンラッドさんが、クラウ姉さんの相棒だ。

 きっと、同室なのだろうこの愛嬌あいきょうのある女性と、クラウ姉さんは三年間過ごすのか……だ、大丈夫だろうか。

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